「―― で、その後、どうしたん?」


 手元にあるA定食には目もくれず、
 話しの続きに目を輝かせる利沙。
  
  
「どうしたって……速攻、部屋に帰ったけど」


 利沙の隣にいる男子・国枝 あつしが
 嘆くように呟いた。
  
  
「あぁ ―― おらぁ、そいつにつくづく
 同情するよー。玉砕覚悟の告白でがっつり拒否
 されるなんて、並の男なら立ち直れないぞー」
 
 
 あつしは、利沙の双子の弟だが、二卵性なので
 ちっとも似ていない。
  
  
「にしたって悠里ぃー、あんた何考えてんのー」
 
「え?」

「純総資産3000億円超。
 そんな男の何処が不満なのよ! 
 いい? あんたには左うちわのバラ色な
 結婚生活が確約されたようなもんなのよ!」
 
「左うちわのバラ色な、ねぇ……」


 ため息をつき、伏せかけた視界の隅であるモノを
 捉え、ゆっくりそちらへ目を向けた。
  
 1枚板の大きなガラス張りの窓の向こうは、
 正面玄関に隣設された駐車場。


 今、そこへ4000ccクラスの
 大型スポーツクーペが1台停まった。                              
      
 悠里と同じくそれに気が付いた数人の男子が
 ざわつき始める。
  
 あつしも気が付いた。
  
  
「うわっ、すっげぇー …… 本物、
 初めて見た……」

「なに、アレ、そんなに凄い車なの?」


 とは、車(メカ)音痴の利沙。
  
  
「たった500万台しか生産されなかった限定販売車。
 おそらく中古でもうン千万は下らないだろうな」    
  

 車好きな男子達はその車の優美なフォルムに
 目が釘付けで。
  
 女子達は、その車から颯爽と降り立った男に
 目を奪われ、ギャーギャー騒ぎ出す。
  
  
『チョーかっこいいんだけどー』

『モデルか俳優さんかなー』

『出入りの業者さん、とか』

『何の用事で来はったんかなー』


 何の用事だろうと、
 悠里にとっては迷惑この上ない訪だった。
  
 女子達の注目の的は椎名 和弥。
 
 たった今、うわさ話をしていた張本人だ。