「あんな場所で妙な事言わんでよ!」

「ここなら良かったのか?」


 椎名くんが笑う。


「そういう意味じゃなくて!」

「好きな人に好きだと言って何が悪い? 
 場所なんて関係あるか? 
 京都駅前であろうと人混みの中心であろうと
 僕はお前を好きだと声を大にして言える」


 呆れる……


「惚れたんだからしょうがない、だからキスをした。
 何が悪い?」


 自分の気持ちばかり押し付けやがって!


「ほな、私の気持ちは?」

「確かに、お前の気持ちを聞かずにあんな事をして
 反省している」

「それなら……」

「だから、僕に惚れさせれば良いんだろ?」


 もおぉぉ! 何なんだ?


「言ってる意味が分かんないわ!」

「そのままだ、僕に惚れさせる」


 椎名くんは話しながら近づいて、
 咄嗟に逃げようとした私の腕を掴む。


「放して!」

「好きになれ、僕に惚れろ」


 私を引き寄せて強く抱きしめた。

 抵抗しようにも、がっちり抱きしめられて身動きが
 取れない!

                       
「放して!」

「僕を好きになれ」

「ならない! 絶対にならない! 
 早く放してっ!」


 私の言葉で椎名くんの腕が緩み、安堵したのが
 間違いだった。
 コイツは ―― また私にキスをした!!


「やめ ――!」


 あぁ……
 
 口を開かなければ良かった。
 舌を入れられてしまった……


「ん ―― ふ……」


 私は学習能力ゼロや……
  
  
「っぁ、やだって…っ」
 
 
 逃げる舌を追いかけられ、強く吸われたかと思えば
 唇を舐められたり……

 嫌でも感じてしまう身体に戸惑いながらも必死で
 抵抗した。

 ようやく唇は開放されたけど、抱きしめられて
 身動きは取れない。


「好きだ……ゆうり……大好きだ……」


 椎名くんは呪文のように言葉を繰り返す。

 何も言えなかった。
 言いたいのに言葉が出てこなかった……

 ただ、ただ呆れた。


「好きだ……」


 椎名くんが更に強く私を抱きしめる。


「あんたなんか大っ嫌い」

「好きになれ」

「ならない」

「好きだ悠里、好きだ」


 私の身体を抱きしめたまま顔を寄せてきた!
 またキス?! 私は歯を食いしばる!


 一瞬、椎名くんの笑い声が聞こえたような
 気がする。

 不意打ちか?

 彼は私の頬にキスをして


「おやすみ」


 と、頬を撫でて、笑いながら駅に向かって
 歩いて行った。


 椎名くんの姿が見えなくなり、私は一気に脱力して
 その場にしゃがみこんだ。

 何が起きたん?

 うちの身に……何が起きたん??

 それに今日は何て夜よ ――!

 展開があまりに性急すぎてついていけない!
    
 元彼へ自分から別れを告げ。

 舌の根も乾かぬうち
 別の男から告白されて……キスまでされて。

 きっと厄日やな……

 地面に座り込んでポケットの中から、
 もう必需品と化している飴玉を取り出し、
 口に放り込んで気持ちを落ち着かせる。

 マジ、何なん? あいつ……

 呆然と、夜空の星を眺めていた。