どうやってバス停にたどり着いたか? なんて

 分からなかったけど、私はやって来た深夜バスに
 飛び乗った。

 ショックだった……

 良い人かもしれないと、ちょっとでも思い始めて
 いた矢先だったので、そのショック度も格別だった。

 溜め息をつきながらバスを降り、自宅へ向かう。


 ……はぁ? うそでしょ?

 椎名くんが居た!

 あ ―― こっちに来る!


 そんなに嫌なら逃げりゃあいいものだが、
 肝心の足が動いてくれない……!

 私の前に立った椎名くんは、


「さっきは、すまなかった……」


 と、私に頭を下げた。


「酒が入ってて……
 空を見上げる悠里の顔に見惚れて」


 見惚れる? こんな私に?


「少し……話さないか?」

「話す事はありません」


 そう、話さなくて良いのだ!


「嫌われたな」

「すっかり」


 椎名くんは、間髪入れずに答える私に少し笑う。

 そして沈黙……

 いやな『間』だ。

 椎名くんが私の目をまっすぐ見据えながら
 口を開いた。
 

「同窓会で久しぶりに会った悠里は見違えるくらい
 いい女になってて……おそらく、あの時、2度目の
 ひと目惚れをしたんだ、お前に」


 はあ?
 ひ……ひと目惚れ?


「だから……」


 だから? ダカラ? なんなの?


「僕と付き合って欲しい。もちろん結婚を前提
 とした真面目な交際だ」


 周りの喧騒の音が一気に消える。

 てっきり、茶化されてるとばかり思っていた、
 目の前に立ってる男に告白された。  


「悪いけど、当分の間誰とも付き合うつもりは
 ないから」


 椎名くんを真っ直ぐ見据える。


「元カレ以外に好きな人でも?」

「おらんけど……」

「じゃあ、僕に惚れさせれば良いんだな?」


 はい?
 前々から思ってたけど、あなたのその揺るぎない
 自信はどこからくるの?

 下手すれば自意識過剰の嫌味な男なだけじゃん。

                          ※
「せやから……」

「人を好きになるのに条件がいるのか?」

「条件……って」

「1人の女にここまで固執したのは初めてだ。
 この責任はどう取る?」


 せ ―― 責任??
 私のせいなん? 違うやろ?!

 あぁぁ! なんや、ムカついてきた!


「責任って何よ! うちはアンタに
 『惚れてくれ』なんてひと言も言ってない!」


 あ

 公衆の面前…

 しかも施設のご近所さん……

 通行人が興味心深々に見ながら通り過ぎて行く。

 あぁ、あのおっちゃんなんか立ち止まって
 見てるし。

 もぉぉぉぉ!!

 これ以上こんな所で醜態を晒すわけにはいかなくて
 椎名くんの腕を掴んで、人影のない近くの公園に
 入った。