「―――― あちぃ~……さみぃ~……
躰もめっちゃだりぃーし、マジやばいぞこりゃ
完全に風邪こじらせたな……」
記念式典の打ち合わせ最中から少し様子の
おかしかった俺を気遣って、
先生は何度も校内の保健室で休んで行くようにと
勧めてくれたが、
生来他人に借りを作ったり、
弱みを見せるのが大嫌いなこのへそ曲がりは
足元だっておぼつかないくらいフラフラなのに
バカな意地を張って先生からの厚意は丁重に断り、
職員室のある事務棟からやっとの思いで出てきて
校舎沿いの遊歩道をフラフラ歩いている。
私立祠堂学院大学・芝浦港南キャンパス ――
現在時刻は午後5時半
普段なら部活等で校内に居残っている
学生も居るのだろうが、
あいにく今は試験休みの真っ最中で、
学生はおろか教職員の姿さえ見かける事もない。
まぁ、仮に誰かが居残っていたとしても、
今にも行き倒れそうな見ず知らずの
おっさんを助けてやろうなんて物好きはいない
だろう。
この品川港南キャンパスは、
祠堂学院大学の数あるキャンパスでも
最大の在籍学生数を誇り
大学本部棟、文学部Ⅰ類・Ⅱ類、藝術学部、
政治経済学部、教育学部、が入っている。
”全ての子供へ平等に充実した学習環境を”
という理念の元、敷地及び校舎を拡張に
次ぐ拡張でどんどん広げ、
在校生&卒業生曰く
” 無駄にだだっぴろい! ”
と言われ、現在の規模になった。
例えば、その広さを分かり易く
説明するなら ――――
東京ドームが楽に2個は作れるくらい、
という事になるだろう。
ちなみに、勤続10年以上の古株の教職員でさえ、
まだ一度も行った事のないエリアや
入った事のない教室があるくらいだ。
2021年度・2月末現在、
総教職員数は産休又は育児休暇の代替教師も
含め合計で約**名。
在籍学生数は全学部合計で約1000名。
都内随一のマンモス校である。
さてさて、問題の行き倒れ寸前の
おっさん・各務柊二 ―― は、
やっとの思いで辿り着いた校門にもたれかかるよう
立ち止まり、はぁ~~っと大きくため息をついた。
”―― でー、これからど~する? 俺……
ここからだと自宅までは歩いて20分ってトコ
だが ―― 果たして、それまで
持ち堪えられるかぁ?…… ”
さぁて、ど~したものやら……と、
まるで人事のようにぼんやり考え
半ば途方に暮れ、立ち尽くしていると、
後方から
”タッ タッ タッ ―――” と、
小走りに近づいてくる人の気配があって、
「あ、あのぉ ―――― 」
”やっべぇ……
目ぇまで霞んできやがった……”
「―― あのぉ、
どこかお加減悪いんですか?」
そう言って、
学生風の娘が傍らで立ち止まった。
”あーー? これで元気ハツラツにでも
見えるかぁ?? ”
その娘と視線が合ったところで、
柊二はとうとう意識を手放した。