「―― あぁっ? ガパオライスの注文忘れてた
 って?」

「すみません」

「すみません、って言ってもな。もう、ひき肉は
 合い挽きも牛もトリも使い切っちゃったし、
 参ったなぁ……あ、左門さん! ちょっといい?」

「んー? 2人で難しい顔取っ付きあわせて
 どうしたの?」

「ガパオライス切れてるんだけど、ひとつ、
 受けちゃってるんだよねぇ」

「えっ、受けたのはだぁれ?」

「それがユーリなんだけど、相当お待たせしてる
 みたいなんだ」


 ”ど、どうしよう ―― 私のせいで皆んなに迷惑
  かけて……!”


「―― オッケー、分かった。俺がお詫びしてくる。
 ユーリは代わりにカウンター入って」

「は、い――あ、あの! すみませんでした、
 左門さん」

「ドンマイ。けど、次からは気を付けてね」


 と、左門さんは問題の”ガパオライス”を注文した
 7番テーブルのお客様へお詫びに行ってくれた。


「ホラ、悠里はカウンター」

「あ ―― 皇紀さん……叱ら、ないんですか?」


 皇紀さんはフッとほほ笑み、


「叱ってどうすんの? 少しボーっとしてたのは自覚
 あるよね? それで、俺に申し送りし損ねたのも
 自分のミスだと分かってる」

「―― はい」

「じゃあ、後は自分で反省するだけだ。同じミスを
 繰り返さないようにね。それとも ―― 怒られた
 方が気が楽だって言うなら、思いっきり怒って
 あげるけどー?」


 皇紀さんの言葉はある意味、衝撃だった。

 叱らない代わりに、自分のやった間違いを
 良く考えろ、と言われ。
 自分の中に”油断と甘え”があった事に
 気付かされた。
 満席の状態が長く続くなんてそう珍しい事じゃ
 ないし。
 妹の突然の来店に気を取られていたなんて、
 言い訳にもならないのに……。


 柊二は”この分では話しどころじゃないな”と
 コーヒーを飲み干したところで立ち上がり、
 会計を済ませて店から出た。
 
 本当は今日こそ悠里をアフターデートに誘おうと
 考えていたのだが。