半年ぶりに会った由加里は、華奢な背中の中ほどまで伸びていた髪を、あごの高さまで切りそろえていた。随分と少年のような印象を与える彼女がまるで知らない人に思えて、俺は先ほどの乾杯で口に含んだばかりの手元のビールのグラスを意味もなく手に取り、そして置いた。
東京駅近くの商業ビルは、金曜の夜だけあってにぎわっている。由加里からの連絡を受けて、俺はよく行くこじんまりしたスペインバルを慌てて予約した。ともすれば騒々しいビルの中で、比較的落ち着いて食事ができるから、結構気に入っている。
俺の知っている限りでは、由加里にとっておそらく半年ぶりの外出のはずでもある。あまり人目に触れないよう、かつ、あまりに「二人きり感」が出てプレッシャーを与えないよう、軽くカーテンで仕切っている程度のスペースの席を手配していた。俺はあまり女性を気遣うことが得意ではないけれど、もし由加里が俺に助けを求めてくることがあれば何でもしてあげたいと、昔から思っている。我ながら健気だ。
由加里とまともに話すのがいつぶりのことなのか、正確には思い出せない。きっと大学四年生のころ同窓会で会っているはずだ。
「ごめんね、急に呼び出して」
由加里はそう言って眉を下げながら、申し訳なさそうに笑った。いつだかに流行った、いわゆる困り眉、というやつだと言えるだろう。由加里はいつも、少しの作為もなく、ほんの少し眉を下げて、ほんの少し申し訳なさそうに、それこそ困ったように笑う。俺に教科書を借りるときの十代の由加里も、同じような顔をしていた。ごめんね、ありがとう。そう言うときの由加里の顔が好きだった。
「いや、全然。むしろ会えてよかった。呼び出していただけるなんて、光栄です」
「もう、何それ」
ふふ、と笑う由加里の目元はあのころのままだけれど、その頬は随分とやせ細ってしまったように思う。