「お時間になりました」
スタッフに声をかけられ、ドレスを引きずりながらしずしずと教会の入場口へ向かう。先に着いていた大倉が振り返り、私に向かって優しく微笑んだ。
「由加里、綺麗だ」
ありがとう、と微笑み返す。介添人が、とってもおきれいですよ、とにこやかに声をかけてくれた。
タキシードに身を包んだ大倉を改めて見つめると、不思議な気持ちになる。プロポーズのとき、大倉は私のことをずっと好きだったと言った。高校生の頃からずっと、と。そんなことがあるのだろうか、と素直に驚いた。ほんとう?と聞くと、本当、と返ってきた。大倉がそう言うなら、そうなのだろう。そう思う。

スタッフの方にブーケを手渡される。ブーケには、スノードロップをいれてくれるように頼んであった。
沙織が残したのは、私への呪いだろうか、願いだろうか。私にはもうそれを知る術はない。結局他人の考えていることの何が本当かなんて、正確に測ることはできないのだ。言葉と言葉以外の示されたピースを手掛かりに、ほんの少し私自身の希望を載せて解釈していく。わからないままで、自分なりに抱えて生きていくしかないのだ。
ブーケを握り、大倉の左腕に手をまわした。ゆっくりと教会の扉が開く。手元のスノードロップをもう一度見つめて、私は前を向き、歩き始めた。