「ねえ、お姉ちゃん」
暗くなった部屋のなかで、沙織は私の枕元に座り、顔を覗き込んだ。
「ひとつ、お願いがあるんだけど」
「・・・うん?」
目を開けると、真剣なまなざしの沙織と目が合う。
「健太郎先輩に、私からも渡したいものがあって。代わりに用意して、渡してもらってもいい?」
「うん、それは、もちろん。・・・沙織からって言って渡せばいいの?」
いや、それはさすがに変だと思われるよ、と沙織は苦笑した。
「普通に、お姉ちゃんのプレゼントとして一緒に渡してくれればいいよ」
「そう?」
うん、と沙織はうなずく。その表情は穏やかで、ああ、沙織ってこういう顔だったな、と思う。今私の目の前にいる沙織は、幼いころの記憶の妹のようでもあり、まるで知らない大人の女性のようでもあった。
「そのほうがいい」
沙織のその言葉に、わかった、と返して、もう一度目を閉じる。そうか、沙織は大倉のことが好きだったのか。そう気がついた。

バスケ部の部長とマネージャーだった大倉と沙織。私よりはるかに一緒に時間を過ごし、お互いを知っている二人。
大倉は沙織をどう思っているのだろうか。私は大倉にとって沙織の代わりなのだろうか。
妹を好きになる男は私を好まないだろう。手の届かない女として妹を見る。手の届く女として私を見る。
脳裏に大倉の顔が浮かんだ。彼は「深田由加里」を選ぶのだろうか。何者かの代わりではなく、集合体代表としてでもなく、私自身を選び取るのだろうか。そんなことがあるのだろうか。そうであったらいい、とも、今の私は思っている。