良かったら誕生日を一緒に過ごしてほしいと切り出されたとき、はじめて、もしかしたら大倉は私に好意を持っているのかもしれないと思った。
このところ大倉と私は週一回のペースで会っている。土日ではなく火水が所定休日の彼は、わたしのような休みという概念のそもそもない、無職とのほうが時間を合わせやすいのだろう、そう思っていた。夜待ち合わせをして一緒にご飯を食べ、終電にも余裕をもった時間で最寄りの駅まで送ってくれる。その間、大倉が私に触れることは一切無かった。いたって健全な関係だ。
「俺、来週土曜が誕生日なんだ。もし由加里がよければ、その日一緒に食事に行ってほしい」
駅の改札口で私を呼び止め、大倉は心なしか緊張した面持ちでそう言った。私がうなずくと、表情をほっと緩め、よかった、それじゃまた、と手を振って去っていく。
うぬぼれかもしれないが、その後ろ姿がうきうきしているように見えて、ああ、彼は私が好きなのだろうか、とぼんやり思ったのだ。

帰宅後、沙織に大倉へのプレゼントを相談すると、彼女はあれやこれやとアドバイスをしてくれた。好きな色はこれで好きなブランドはこれ、趣味はあれで、こういうのだったら喜びそう。さすがは元マネージャーだけあって大倉のことをよくわかっている、と感心する。一緒にパソコンの画面を覗き込みながら、百貨店のショッピングサイトやブランドのサイトを行き来する。私が女性ものに目移りすると、ちょっとお姉ちゃん、時間がもったいないんだけど、と沙織が声をとがらせた。悩んだ挙句にようやく数個の候補に絞り、あとは私が現物を見にいって決めることにしよう、と結論が出たとき、私たちは顔を見合わせて笑った。姉妹らしい時間を過ごすのは初めてのように感じた。
大倉に祝ってほしいと言われたから祝う、とは、沙織には言えなかった。