遠く……覚えていることがある。

 約束したの。王子様と。
 きっと一緒に、幸せになろうねって。
 離れてもちゃんと覚えていようね、って。

 明るい林の中で、手を取り合って。小さくて幼い手は、柔らかくて温かかった。

 けどーーー。

 あれは、夢だったのかもしれない。だって……。

 憧れも、思い出も、現実の役には立たないんだよ。



       ※



「はぁ!? 破産んっ!?」


 それは、高校の入学式直前のことだった。
 レストランを営んでいた両親が、にっこり笑って切り出した。

 …………これってもしかして……まさかの、一家離散フラグ!?


「そうなの。困ったパパよねぇ」


 ちょっと、ママ…………笑ってる場合じゃないんじゃないの!?

 えへへ、って……パパだって照れるトコじゃないでしょうよ間違いなく……っ!!

 え……これって、大変なことなんだよね…………?


「大丈夫、何とかなるだろ」


「…………ホントに!?」


 けれど、アタシのため息と抗議と淡い期待をヨソに、住んでいた家はあっさりなくなり。

 何が「憲法で最低限は保証されています。最低限、守りますよ」だ悪徳弁護士! 最低限てそもそも何なの!?

 あっという間に……我が家は一家離散完了した。
 びっくりするほど呆気ない。家族ってこんな簡単にバラバラになるもんなんだね。結局アタシ、パニクることしかできなかった。

 ーーーー弟2人はパパと一緒に北海道の祖母の家へ。小さな妹とママは、隣の県にある叔父の家に。
 残ったアタシは……急遽、学校の寮へと送り出された。

 戸籍しか一緒じゃない、六人家族。

 ………………ハァ。

 世の中、なんて世知辛い。
 アタシは、アタシの力で生きて行くしかないんだろうな……。

 たかだか15の身空で、アタシはしみじみ、悟ってしまった。

 大きな学園の大きな門をキッと睨み、アタシは一人での一歩を果敢に踏み出す。
 荷物はキャリーバックに一つだけ。3月の冷たい風が身にしみる。

 荷物も家族もお金もない。
 あるのは、パニクりやすいアタシの身一つ。そして、家族を慕う強い気持ち。

 ……絶対に……ここから絶対、這い上がってやる!
 待っててみんな!