私の初恋はもういない。

長すぎて長すぎて、叶わな過ぎて消えてしまった。

フラれた訳ではないけれど、叶ってはいなかった気持ち。

一生に一度しかない私の初恋は、どこにいってしまったのだろうか。



あの気持ちと出会ったのは、小学一年生の夏。

とある同級生を見ると、なんだかエフェクトがかかる事に気が付いた。

幼心にもすぐに恋だと分かり、同時にその同級生は程よくモテるとも知る。

当時の私は可愛い物が大好きで、だけどアウトドア派な女の子。

大小さまざまなハートの模様のTシャツに、五分丈レギンスとデニム生地のミニスカート。

髪型はツインテールで、ハンカチには母親に小さなリボンを付けてもらっている。

ただ、履いている靴は走る・飛ぶ事に優れた運動靴。

靴に可愛さは求めない。

求めるのは、走りやすさと飛びやすさ。それと、足に馴染むかどうか。

初恋だった同級生も外遊びが大好きで、休み時間になると私達は自然と二人で遊ぶ様になった。

鬼ごっこ、かくれ鬼、雲梯、タイヤの跳び箱、鉄棒……ただ、運動量の激しい遊び方だった為、他の同級生達はついて来れないので、二人で遊んでいたのだ。

お互い両親が共働きで、放課後の学童保育の時も二人で遊んだ。

この関係がこれ以上にも、これ以下にもならず、小学三年生の秋。



私の親友と三年間好きでい続けた同級生が、両思いだと知った。



ただ、二人とも大事な人過ぎて悲しみはせず……だけど、恋心は空っぽになってしまい、暫く初恋の相手とは距離を置いた。

結局二人は付き合わなくて、親友は他の人を好きになる。

そんな事があり、恋心はもう一度満タンに。

それでも、私と初恋の人との距離は昔程近づく事はないまま、それなりに仲の良い友達という関係はずっと変わらない。







……と、思っていた。







関係が変わったのは、中学一年生になった春のとある日。

人づてに初恋の彼が私の事を好きだと知り、心の中でとても喜んだ。

それから学校で良く目が合う様になり、それなりに二人で話す機会も増え……『同級生』のポジションでは無いと、親友からも友人からも言われた。

あとは、告白をするだけ。





自宅に帰り、どうやって告白しようか沢山考えた。

ベッドに入って、シミュレーションもした。

眠れないと思っていたけれど、結局は日を跨ぐ前にぐっすりと眠れて、私はとても幸せな夢を見た気がして……今では内容を思い出せないけれど、ふわふわとした気持ちだけが残っている。











その日の明け方、まだ日が上りだしたばかりの時、私は吐いた。

急に苦しくなって、トイレにも間に合わず、ゴミ箱までも間に合わず。

昨晩カバーを変えたばかりの枕に、大量の血を吐いた。

可愛い物よりもシンプルな物が好きになっていたので、水色一色にワンポイントとして黄色い星が端に一つだけ刺繍されている枕カバー。

あっという間に黒っぽい血で染められ、ベージュ色のパジャマと白いシーツもお揃いの色になる。



たまたま起きた母親が異変に気付き、娘の部屋の戸を開けてみれば。

あらまあビックリ、四つん這いになって口を押える娘の姿。

そのまま救急車で大きな病院に運ばれ、学校に登校できる様になったのは中学二年生の夏。



親友から学校での話を聞いて、友人と好きだった彼が付き合い始めたと知る。

心の中では泣いたけれど、その日から私の初恋は無くなった。



もう、あの気持ちは戻らない。

何処に行ったのかも分からない。

もっと早くに告白していれば、フラれていても初恋が無くなる事は無かったかもしれない。

中学二年生の冬、治ったと思った病気は再発して、中学三年生の冬になるまで学校には行けず、卒業式でも思い出が無さ過ぎて泣けなかった。



あの頃の幸せは、すっかり消えていて、その時間はもう取り戻せない。

彼を見ると、他の同級生とは違う気持ちがある……とは思う。

だけど、初恋かは分からない。



いつしか消えた私の初恋。

まだ見つかりはしないけど、無くなった訳ではないのかも。

だとしたら、行方不明なのだ。

今は分からなくても、これから先に思い出す可能性だってあるだろう。

私の命が無くなる前に、初恋を無くしていない事に気づきたい。



そんな事を思った、高校一年生の冬。



決着はついた。



私の命か初恋か、それは私以外には分からない。



白いシーツの敷かれたベッドの上で、私にだけは分かったのだ。