「友だちと一緒の大学生活は、楽しい?梢」

背後から、母親が消え入りそうな声で私に訊いた。

「うん、楽しいよ」

私は振り返らず、病室の窓から見える景色を呆然と眺めながら答えた。

街の景色、歩道を歩いている人、道路を走る車が私の瞳に映る。

「そう、よかった」

背後から、母親のうれしそうな声が私の耳に届いた。

勝手に家を飛び出してからも、こんなにも私を心配してくれていた母親に胸が苦しくなった。

「怒らないの?」

「えっ!」

私が静かな声でそう訊ねると、母親がすっとんきょうな声を上げた。

「勝手に家を飛び出したうえに、れんらくを一度もしなかった私を怒らないの!」

私は母親の方に振り向いて、早口でそう訊いた。

私の瞳にうっすら涙が溜まり、視界がにじむ。

「怒るわけないでしょ、梢」

母親は、口角を上げてやさしい口調で言った。

「ど、どうして?私は、勝手に家を飛び出したんだよ。お母さんを捨てたんだよ!」

私は、うるんだ瞳で叫ぶように言った。

「それは、お酒ばっかり飲んでる私のせいでしょ。梢は、悪くないよ」

母親は、ぶるぶると細い首を左右に振った。