それを聞いて千隼は潤の行動を思い出す。そして未だに牽制をしているのか。そう思うとフッと笑みが漏れた。
 同じく近くのOLの声が聞こえたのであろう椎名が小声で「…え?田崎さん、彼氏!?あ〜確かに田崎さんって溺愛したくなる感じかも!田崎さん自身が素敵な人だからきっと彼氏もカッコいいんだろうなぁ。って、10日位前ってもしかして江藤くん、田崎さんの彼氏とか拝見しちゃいました?」とニヤニヤしながら聞いてくる。

 「その場に居たよ。確かに…溺愛、過保護だったよ。気になるんなら直接聞いてみたら?田崎さん、話してくれるんじゃないかな?」

 その目撃されてる人物は彼氏ではなく、実弟だと知っていて椎名を煽ってみる。椎名は椎名で「田崎さんと同年代だから仕事中なんだけど、時々プライベートの話とかしちゃうんだよねぇ。ちょっと振れそうなら彼氏ネタ、振ってみよう!」と、楽しそうにしている。
 過保護すぎる日万凛の弟のことを椎名はどう思うんだろうか、それを考えると少し面白い。

 さて、そろそろ打ち合わせ時間だ。椎名も時間に気がついた様で残っていたコーヒーを一気に飲み干し立ち上がった。
 「さ、江藤くん。行こう。ここまで来て遅れていくのは良くないしね。」
 そう言いながらカップが二つ乗っているトレイを片手で持ち、返却口へ片付け、その足でエントランスの正面にある総合受付へと歩みを進める。