「江藤くん、先日は代わりに行ってもらいありがとうございました。どうでした?」

 パソコンの画面を睨みつけ思案に耽ていいたら、椎名が話しかてきた。現実に戻される。
 そう言えば簡単に社内メールで報告しただけだったかと思い、結城と、のちに合流した日万凛とやり取りしたことを再度、椎名に話し、この回のCMに関してはこのまま進める方向で纏ったと伝える。
 次作のCMに関し、少し話し合いたいと伝言を貰っていた。椎名に先方に言われた希望の日にちを伝える。

 目の前で早速、結城に連絡取る椎名の話を聞きながら千隼はそっと自分の手帳を確認する。
 自分の仕事が調整つくのであれば、また日万凛の会社に行きたいと思ったからだ。
 日万凛に再会してからの数日、千隼の中でどうやってまた会うか、この事が頭を過っていた。

 日万凛は、連絡先もメールアドレスも変えている。
 住まいも学生時代、彼女が住んでいた場所は既に引き払われていた。
 今、また連絡取りたいのであれば日万凛の会社に赴かなければいかない。
 だからといって用も無いのにエントランスや社外や待ち伏せするのも気が引ける。椎名の仕事が唯一の手がかりになる。

 「椎名、調整日決まった?いつになったんだ。」
 心の内を悟られないようにサラッと聞いてみる。
 椎名は自身の手帳片手に「今週はCM製作会社との打ち合わせもあって厳しいので来週の月曜にしたけど。どした?江藤くん。一緒に行く?」
 冗談だけど、と言う椎名の言葉がきこえたが「……行く。」と千隼は答えた。
 公私混同しては、と頭の片隅では思っていても自分の気持ちは裏切れなかった。

 「江藤くん調整つく?」と、言う椎名の言葉に「ああ、大丈夫だ。」とだけ伝え、仕事を再開した。今週の業務を滞りなく終わらせなければ。日万凛のことに縛られていた意識を一気に仕事へ向けた。