あの日、蒼生と出掛けた時。日万凛は帰り際に蒼生に想いを告げられた。

 「好きだ。」

 告白のシーンは日万凛の家の前でサプライズもなければ、セリフも何の捻りもないシンプル。
 それがかえって日万凛には胸に響いた。

 日万凛自身、蒼生の事は好きだ。それは親愛ではなく、恋情での好きで。
 だが、ここに来ても日万凛の中には、過去の蒼生との関係。
 臆病な感情は拭いきれない。
 どうしても「if」を考えてしまい、蒼生の言葉を全て素直に受け止められないのだ。

 もし、この告白が嘘だったら。
 もし、付き合い始めたら手のひら返して学生時代の頃の蒼生に戻ってしまったら。
 もし、遊びで捨てられたら。
 マイナス思考に陥っていく。

 蒼生は返事を催促するわけではなく、ジッと日万凛を見つめている。その目を見た時、泪の言葉が日万凛の脳裏にふっと過ぎった。
 『神崎さんの言葉をシンプルに受け取ってあげて。そして日万凛は素直になりなさい。』と。