「田崎」と男性が呼ぶ声に、聞き覚えある声で「周防くん」と言う声が聞こえ、ドキりとする。ふと視線を向けると、日万凛が「周防」と呼んだ男と資料見ながら向かってきている。
 その時、思わず「日万凛」と声掛ると、資料に目を落としていた二人が一斉に千隼を捉えた。

 「…ち、千隼?」

 もう何年になるだろうか。スマホを通してじゃなくリアルの日万凛の声を聞くのは。自分の心臓が普段よりも早く波打つ様を感じ、千隼はまだ自分の中で日万凛との恋が完結していなかったのを改めて気がつく。

 「久し振り。今日は椎名の代理で前回修正入った絵コンテを先程、結城さんに渡したところだよ。」

 隣に男がいるから変に過去の話ができない。もどかしくも感じるが、今は仕事中だ。仕事の話を振ると日万凛は社会人然り、すぐさま動揺を引っ込め対応した。

 「ありがとうございます。今お時間ありますか?すぐ確認しお返事をしたいと思うんですが…」

 それに対し、大丈夫と答えると日万凛の隣にいた男が「田崎、まだ結城第一会議室いるってそこの江藤さん?と向かって欲しいって。」と、先の行動を促す。そして言うことだけ言って「じゃ、先に不破さんにこの資料届けるから、田崎はそっち行っていいよ。…それでは、失礼します。」と去って行った。

 廊下に二人きりにされ少しの沈黙が訪れる。ゆっくり日万凛と話したい、と思いつつも会議室に結城を待たせてるのを思い出した日万凛に「絵コンテの詳しい話は会議室で」と再び会議室に舞い戻った。