日万凛がこのBARに来て不破に促されて一番最初にオーダーしたカクテルはジンライムだった。
 このカクテルのカクテル言葉が〈色褪せぬ恋〉とのことだ。
 なんとなく飲みたいものをマスターにオーダーしただけなのだが、そのカクテルにこの様な意味が含まれていると日万凛にとって新たな発見であった。

 基本表情をさほぼ変えることがない不破が面白そうに聞いてくる。
 「田崎、お前今、男いないだろ。色褪せぬ恋でもしてるんじゃないか?」
 プライベートの時間でアルコールも入っているからだろう。会社で見せるストイックな上司の雰囲気が取っ払われ不破は普段より格段と話し易い雰囲気を出している。

 そんな雰囲気に飲まれたのか、日万凛は「学生時代が最後の恋です」と伝えた。それを聞いた不破を始め、カウンター内に居た東雲も榊も驚いていた。
 それは仕方ないのかもしれない。もう学生時代なんて五年以上前だ。
 日万凛は巷ではもうアラサーと言われる年齢に差し掛かっているのだ。