『……昨日は送り届けて直ぐ寝落ちされて帰るタイミング逃したんだ。ちょうど電話かけてきた潤、日万凛の弟なんだけどアイツに頼まれたってのもあるけど。』
 『日万凛の一番の親友なのかな、夏目さんは。なら隠さず言っておくけど、俺は日万凛を傷つけるために再会果たしたんじゃない。やっぱり日万凛が好きだからやり直したくてあのBARで一度見かけてからあそこに通い出したんだ。』
 俺の初恋は日万凛だし、潤曰くかなり拗らせてるけどね、と。
 一緒に聴いてる智之が’“日万凛ちゃん、弟いるの?“と隣でスマホ打ち込んでいる。
 それに泪は縦に頷きまた蒼生の話に耳を傾ける。

 『昔の俺の話を聞いていたら不信感とかあるかもしれないけど、ただ好きな女に会いたい、話したい、そばに居たいってだけ。まだ日万凛には想い伝えてないから夏目さんも内緒にしていてくれると嬉しい。』
 その声はとても穏やかだ。

 「日万凛を傷つけないのなら神崎さんが想いを伝えようが伝えまいが、どっちでもいいです。私からは日万凛に今聞いたことは伝えません。」
 日万凛の中でもこの蒼生の存在が大きいのは泪も解っている。日万凛は元彼と付き合った時に蒼生を吹っ切れていたつもりでも、心の奥底ではちゃんとこの初恋を昇華できていなかったのだと思う。だから次の恋愛に進めなかったのだと。ならこの機会にちゃんと昇華させて進めてほしい。
 今の時点で、日万凛が蒼生にどの様な気持ちかは判断しかねるが、きっとこの再会はこの二人には大切なのだろう、と泪は感じた。

 『……あー、夏目さん、ごめん。そろそろ、日万凛シャワー終わるかも…今飯作ってる最中だから、あとで日万凛から連絡させるよ。』
 主婦か!と突っ込みたくなったが、そこはグッと堪え挨拶だけして電話を切った。

 「泪ちゃん。なんだか日万凛ちゃんの幼馴染、想像していたのとはなんか違うね?」
 智之に言われ、泪も同意する。
 まさか、日万凛への恋心を蒼生に聞かされるとは思わなかった。
 BARで会った蒼生の印象もだが、改めて話してみても話聞いていたのと全く違う印象だった。

 「あーーーーーーーーーーーーっ!!だけど…心配だよ…智之。」
 スマホ握って一吠えする。智之の事を過保護だとバカに出来ない、泪も日万凛に過保護だ。

 気持ちを落ち着かせ、日万凛にメッセージ送ろうと試みる。
 だが蒼生の日万凛へ対しての想いを聞かされ、後になって変にドキドキし始めた。今迄ずっと沈黙をしていた親友の恋愛事情なんて妙にこそばゆい。
 泪は一人焦り上手く文章を打ち込めない。無意味なスタンプの乱舞と誤打誤変換を大量に送りつけ後に別の意味で日万凛を困惑させることになる。