「……、……り。おい、起きろ日万凛!」
 大きく揺さぶられ、急いで目を開ける。
 まだぼーっとしてる視界と思考とで蒼生を見つける。
 帰りのタクシーで、蒼生の言葉に甘えて少し目を瞑って休もうと思ったのが、かなりの熟睡をしてしまったようだ。
「ごめん、寝てた……ここ、どこ?」

 タクシーの窓から外を見てもイマイチ現在地の把握できず蒼生に確認すると「あと十分位で着くぞ。お前の家、駅から遠い?家の前まで送ってもらうから住所」と、顔を覗き込みながら聞いてくる。
 タクシーに乗り始め時期に寝てしまったから二十分は寝ていた様だ。
 ドライバーに住所伝え直に家の前で降ろしてもらう算段をつけ、あと少し…とまた日万凛は目を閉じた。

 次に日万凛が目を開けたのはタクシーから降車する時だった。
 降車してフラフラとアパートに向けて歩き始めた時、スッと傍に来た蒼生が日万凛を支えてくれる。
 スマートなその行動、睡魔がなければ何かしら突っ込み入れていただろうが今の日万凛にはそんな余裕も無く言われるまま、されるがままの状態だ。

 昔の蒼生のままだったのなら、BARで再会しても飲み直すこともなく、ましてやこの様に送ってもらう事も無かったであろう。
 何がキッカケで蒼生に変化があったのかはわからないけれど、幼い頃みたいに蒼生の存在が近く感じられる事が日万凛は嬉しかった。