タクシーに乗り込み最寄駅をドライバーに告げシートに深く身体を沈める。
 結局、蒼生が家まで送ってくれる事に日万凛は甘える事にした。
 この駅から日万凛の住む所まで迄は電車で一本。乗車時間は三十分前後という所だ。
 最寄り駅のから徒歩五分の所にある築六年の二階建てアパート。
 その一階部分に住んでいる。就職してから越して来た日万凛の城だ。

 タクシーが走り出して無言が続く。このドライバーもおしゃべりな人ではないらしい。
 音を絞ってある深夜のラジオと、時々入るタクシー無線以外音という音は車内にない。
 何か話そうかと日万凛も考えを巡らせてはいるが、徐々に睡魔が襲ってきた。
 仕事も次の段階へと進む先が見えてきた安堵感と、週末で気が抜けているところに、程よいアルコールでもっての酔いもあるのだろう。
 窓の外を見ていた視線が、徐々に下を向き始め身体も窓に寄りかかるように、寝る準備整っていく。
 「寝たきゃ、少し寝てろよ。近く着いたら起こしてやるから。」
 窓に頭ぶつけるから、と蒼生の方に引き寄せられそのまま肩に凭れるような格好になる。
 支えられてる安心感、髪を撫でてくれる心地よさ。春と言えども深夜で車内は少しひんやりしていたけれど、寄り掛かった蒼生の身体はとても暖かくて日万凛の目は益々瞼が閉じていく。

 蒼生に抱き寄せられこんなに安心することあったかな。離れたくない。この時、日万凛はそう感じた。
 もしかしたらその想いはお酒が招いた幻かも知れない。
 幻ならこのまま目が覚めなきゃいいのに、と少し乙女的思考と共に日万凛は夢の中へと入っていった。