お迎え待ちのちょっとマッタリして時間を持て余し始めた頃、帰り際にバタつかない様にと日万凛は化粧室へ行った。
 そして化粧室に入る前にカウンターにより東雲と榊に挨拶をする。今日はカウンターじゃなかったのでゆっくり二人と話せなかったからだ。

 二人と少し会話して当初の目的地である化粧室へ歩みを進める。思ったより酔いが足にきてフラつく。沢山飲んだつもりはないのだけれど、話が盛り上がっていくうちにペースアップしていた様だ。

 他のお客さんのテーブルや椅子にぶつからない様にと慎重に歩いて化粧室に入る。鏡で自分の顔を確認するといかにも‘酔っています’という顔だ。
 少しでもこの酔っ払い顔を直さなきゃと化粧をし直し、来た道を戻る。

 化粧室前の通路はすれ違うのがやっとの横幅で数メートル歩くと、化粧室へ向かう通路とフロアを仕切る段差がある。化粧室に向かう時、日万凛はこの段差につまずきそうになったので、足元を意識して歩く。
 フラつく足元の少し先に男性の靴が見え、ハッと気が付いた時、男性の足に躓きバランスを崩した。転ぶと思われた日万凛の身体は力強い身体で支えられ、転ばずには済んだ。

 だが、事故とは言え見知らぬ男性に抱きしめられている状態だ。緊張して固まった日万凛を支える男性の力が弱まったのを確認して漸く言葉を発する事が出来た。
 「っ!す…すみません。支えてくださり、ありがとうございます。」羞恥で顔を上げれず俯いて言葉を紡いだ。 
 そして羞恥と申し訳なさから上げた視線の先に思いもよらぬ人が立っていた。