「日万凛ちゃん、だよね?」

 と、人の良さそうな笑みを浮かべ日万凛に話しかける雅紀は一体何がしたいのかわからない。
 カウンターからボーッと見ている俺に榊が「蒼生、今がチャンスだよ、話しかけてきな。」と俺の背中をそっと押す。

 情けなくも周りに後押しされ日万凛の元へ。
 それに今、雅紀が向かってるから日万凛は戸惑ってるだろう。
 でもこれはいいキッカケ。
 今話しかけなければもしかしたら二度と会えないかも知れない。
 そう考えたらさっきはスルスル出てこなかった言葉が出てきた。
 「日万凛、悪い。さっきの俺たちのこと、こいつ見てたらしくて日万凛と話したいって。よかったら今から一緒に飲まないか?」
 日万凛は帰ろうとしていたのに、これしか思い浮かばなかった自分のボキャブラリーの無さに凹みそうになる、が。

 日万凛を除く三人はまだぽかーんとしていたが、その中で女が「日万凛、知り合い?」と俺を睨みつけながら日万凛に伺う様に話しかけてる。日万凛はそれに「泪大丈夫よ、幼馴染だよ」と答えると泪と呼ばれた女は少し安心した顔をしたが警戒心は解いてない、という目で再び俺を睨んできた。
 そして俺の方を見て「今から日万凛と帰る予定でしたがえーと、お名前伺っていいですか?」泪は話の途中で俺の名前を聞き、俺が神崎と答えると「神崎さんがちゃんと日万凛を家に送り届けてくださるなら私はそれでいいですよ」という。
 日万凛は少し困惑しているみたいだ。そんな日万凛に泪は「多分、今の神崎さんなら日万凛を傷つけることはしないと思う」と言う。もしかした俺らの過去を日万凛に聞いたのかもしれない。
 もちろん、もう俺は日万凛を傷つけようとは思わない。
 だからしっかり日万凛と泪の目を見て「飲み終わったら責任持ってしっかり送らせてもらう。ありがとう夏目さん。」といい、状況が飲み込めない男二人は放っておいて日万凛をテーブルから連れ出した。