BARを出て、駅まで三人で向かっていたが雅紀は駅に着く手前で流しのタクシー捕まえて帰ってしまった。雅紀はこれから彼女の元へ行くそうだ。

深夜の駅のロータリーへ向かう。
二人で歩道を並んで歩くのはいつ振りだろうか?日万凛は記憶を遡ってみる。
中一の最初の頃にあったか、その位だろうか。あの頃は然程二人の身長に差はなかった。
あの頃と同じ、穏やかな雰囲気で過ごせてる今を日万凛は不思議な気分でいた。

夏目さんとも約束したしな、と前置きしてから蒼生は「日万凛、家まで送る。最寄り、何処?」と聞いてきた。
再会して数時間で二人きりという状況に日万凛は戸惑っている。思いがけない再会もだが、再会した当初より今、この時間の蒼生との空気は嫌じゃない。
寧ろ心地よく感じていて、そんな自分に戸惑っている。

ここで送り要らない、と突っぱねる事も出来るだろう。昔ならそうやって日万凛は突っぱねていた。
でも今はもう少し蒼生と居たい、話したいと日万凛は感じている。
そう思える位、BARでの時間は日万凛の中にあった蒼生像にいい変化が現れたのだ。雅紀の影響も大きいだろう。
それだけでは無く、この数時間で当時の印象を覆す位の蒼生の態度、行動の変化があった。

タクシーに乗り込み最寄駅をドライバーに告げシートに深く身体を沈める。
結局、蒼生が家まで送ってくれる事に日万凛は甘える事にした。
この駅から日万凛の住む所まで迄は電車で一本。乗車時間は30分前後という所だ。
最寄り駅のから徒歩5分の所にある築6年の二階建てアパート。
その一階部分に住んでいる。就職してから越して来た日万凛の城だ。

タクシーが走り出して無言が続く。このドライバーもおしゃべりな人ではないらしい。音を絞ってある深夜のラジオと、時々入るタクシー無線以外音という音は車内にない。
何か話そうかと日万凛も考えを巡らせてはいるが徐々に睡魔が襲ってきた。
仕事も次の段階へと進む先が見えてきた安堵感と、週末で気が抜けているところに、程よいアルコールでもっての酔いもあるのだろう。
窓の外を見ていた視線が徐々に下を向き始め身体も窓に寄りかかるように、寝る準備整っていく。
「寝たきゃ、少し寝てろよ。近く着いたら起こしてやるから。」
窓に頭ぶつけるから、と蒼生の方に引き寄せられそのまま肩に凭れるような格好になる。
支えられてる安心感、髪を撫でてくれる心地よさ。深夜でちょっとひんやりしていたけれど、とても暖かくて日万凛の目は益々瞼が閉じていく。

蒼生に抱き寄せられこんなに安心することあったかな。離れたくない。この時、日万凛はそう感じた。
もしかしたらその想いはお酒の幻かも知れない。
幻ならこのまま目が覚めなきゃいいのに、と少し乙女的思考と共に日万凛は夢の中へと入っていった。