「不破さん。ふと思ったんですけどビールや発泡酒、サワーはよくコンビニやスーパーでも見かけますけど、カクテルは余り多くはないですよね。もっとカクテル飲料あればいいのにと思うんですけど。」

休憩スペースの一角。対面に座って缶コーヒーを飲みながら新聞読んでいる不破しのぶ(ふわし のぶ)。その不破に話しかけたのは不破の直属の部下で飲料メーカーマーケティング部所属、その中でもアルコール飲料の担当である田崎日万凛(たさき ひまり)。

会社は都内に地上十階、地下二階の本社自社ビルを構え、支社も全国各地にあり、そして全国四ヶ所に生産工場を保有している。
清涼飲料、アルコール飲料など飲料全般取り扱いがある。会社の推し商品アルコール関係であればはビール、発泡酒だ。他アルコール類で幅広く取り扱いあるのはサワー。ワイン、カクテル類は少しの取り扱いしかない。

だが日万凛はビール、発泡酒は苦手だ。だから携わるのであるならば、それ以外がいいと思っている。現に新人研修時に行った人事に関する面談でも伝えていたのだが、何故アルコール飲料担当になったのか不思議である。

マーケティング部の主な仕事内容として新商品の企画、広告、広告媒体の企画業務。日万凛と不破はその中でも主に新商品の企画だ。
普段、余り発言をしない日万凛の提案に不破は少し驚く。いい意味での驚きである。

不破から見る部下の田崎日万凛は控え目な印象だ。それは見た目もだが特に性格がだ。仕事に対しての姿勢は淡々とだが正確にこなす、ミスは少ない。
だが意見や提案を積極的に発信するタイプではないからだ。

折角の提案だ、採用の有無は別として企画する、という経験をさせてみるか。どちらに転がってもこれは日万凛の今後の成長に繋がる。新聞から視線を上げ日万凛を一瞥しながら不破はそう考える。

「田崎、コレ企画してみるか?カクテルを新商品として出すか。」
不破のその言葉を聞き、日万凛は顎に左手を添え宙を仰ぎ見ながら少し考えた後、小さな声で「やってみたいです。」と、告げた。