蒼生とのすれ違いの時、泪は仕事は淡々と熟す日万凛が怖かったと、のちに教えてくれた。
 日万凛自身は制御していたつもりの感情だけれど、泪や潤からすると怒るでもなく、悲しむのでもなく、淡々と過ごしていた日万凛に危機感を覚えたと。
 けれども、纏う空気は淡々と、と言うのには程遠い、綱渡りのような緊張感であったと。
 平常でいなきゃと言う緊張の糸がピンと日万凛には張り巡らせてあり、それを断ち切りたくとも断ち切ってしまったら日万凛は壊れてしまうのではないか、と不安で悲しかった。
 そう、泣きながら泪が言ってきた時、漸く周りにも迷惑かけていたのだと理解した。

 潤にも纏う空気で精神的に日万凛に何かしらの負荷があるのは分かっていても、その原因もなんとなく把握はしていても日万凛から話すならともかく、外野が突っ込んだら脆く崩れてしまうのではないか、と危惧していたと全てが終わった後に言われた。
 けれども、偶然であったのだけれど、和泉とBARにいるところを見かけ、蒼生の拗らせっぷりを知っていたから尚のこと、日万凛が許せなかったと。
 それを問い詰めようと思ってレストラン予約したら個室からまさかの蒼生が出てきて全ての点が線となり状況を把握して、泪と共有したって言うのだ。
 過保護にも程があると思うけれど、それだけ周りに心配をかけていたのだと気がついた。

 お嬢様の一件の後の蒼生は、今迄以上に想いを伝えてくる。それがとてもくすぐったい。けれどもとても嬉しいのだ。
 同じように、日万凛も蒼生に想いを伝えようと試みるがなかなか上手くいかないところが目下の悩みであるけれど、今迄以上に心身共に充実した時間であるのは間違いない。
 
 もう、少しで七月。
 日万凛は、二十九歳になる。