「…俺は、絶対お前と別れたりしない。ガキん頃から俺にはお前だけだったんだ…。散々拗らせて、漸くお前が俺と向き合ってくれたのに、ここで手放すわけねぇだろ!!」
 そう訴えてくる蒼生の声が震えている事に気付く。
 「でも、あの人は蒼生と結婚するって。蒼生を返してって…」
 「違う!俺があの女の所有物なんてありえない。俺が結婚するなら、それはお前だ、日万凛。…俺はずっと、それこそ俺らがガキの頃からお前が好きだったんだ。けれども、俺は方法を間違えた。」
 蒼生が再会してから、想いを伝えてくれた時にも、確かにそう言ってくれた。その言葉を、一度は信じたけれども、あの人が現れてからその気持ちが、とても脆弱な事に気が付いた。
 蒼生は再会してから、言葉や態度で惜しみなく日万凛に愛情を注いでくれていた。けれども、日万凛が知らなかった蒼生を知っている女性が目の前に現れてしまったら、日万凛のちっぽけな自信なんて、太刀消えてしまったのだ。
 
 「…俺は、お世辞でもいい男ではない。日万凛の興味を引きたいがために、寄ってきた女に手を出して。それは相手した女にも、そして何より日万凛を傷付けた。日万凛が千早と付き合うようになってからほんと、自分でも嫌になるってくらい荒れた。自業自得なのにな。」
 そう、当時は理由がわからなかったけれど、蒼生が冷たくなり、これ見よがしに彼女をとっかえひっかえしていた事に、嫌悪とそして悲しさがあった。
 「そして、大学進学したら日万凛は実家から出てるし、しかも携帯も番号変えただろ。そん時になって、大事なものを本当に失ったんだと実感したんだ。…潤は完全にお前の味方だろ?それなく日万凛の近況聞こうにも、当時は潤とも今みたいな関係ではなく、ギクシャクしていたから。」

 そこまで、語って蒼生はフッと息をつく。そっと見た蒼生の顔は、今迄見たことのない、泣きそうな表情で、日万凛はドキリとする。
 「諦めようと、思った。彼女を作ってみたけれど、結局は長く続かない。日万凛と比較してしまうから。社会人になってからはそんな自分に嫌気もさし、後腐れない女に誘われたらって…まぁそれも最低だよな。」