カウンターに着くと蒼生は「日万凛はここ」とカウンターの端の席に座らせた。その隣に蒼生、蒼生の隣には雅紀と座る。
 雅紀はこの席順に「これじゃ、日万凛ちゃんと話せねーじゃんか!」と言っているが蒼生はそれを無視をしている。
 そのやり取りを見守っていた榊に「蒼生、独占欲丸出しだな。」と言われ思わず見た蒼生の顔は少し赤くなっていた。

 マスターは日万凛の前にスッとグラスを差し出す。
 「蒼生がもう日万凛ちゃんにお酒飲ませるなって言うから今日はもうソフトドリンクね。」
と、烏龍茶を置いてくれる。そして「蒼生ももう飲むのはやめな、日万凛ちゃん送ってくんだろ?」とさっきまで 飲んでいたグラスを回収され烏龍茶に差し替えられた。

 席をカウンターに移してからは雅紀が待ってたかのようにマシンガントークが炸裂。
 話の内容は、主に学生時代から今迄の日万凛の知らない蒼生の話だ。
 日万凛が知らない蒼生を雅紀から聞くのは楽しかった。

 雅紀が面白おかしく話してくれるというのも大きい。かなり誇張されているのもあるのだろうか、時々蒼生が『それは大袈裟だ。』とか『そんな事はない。』などテンポ良く突っ込んでいたりする。
 その様な蒼生を目の当たりにする事がなかった日万凛は少し驚く。

 子供の頃の蒼生ならまだしも、中高生の頃の蒼生はいつもツンツンしていて、どこか近寄り難い、そんな印象だった。
 近寄り難い印象が根強く残っていたので、そんの蒼生の素の差が垣間見れたような気がして嬉しくも感じた。

 蒼生と雅紀は大学で知り合って社会人になってお互い会社は違うが定期的に飲む間柄。
 それなりの付き合いがあるのに今日初めて日万凛という幼馴染が居ると知ったという。しかも偶然にもこうやって飲む機会が出来て嬉しい、と日万凛とこうして会話する事を喜んでくれた。

 最初は適度に雅紀の言動に突っ込み入れていた蒼生だが、後半の方は殆ど言葉を発していなかった。
何か考えているような、そんな雰囲気だ。「あお?」と日万凛が顔を覗き込みながら問いかけると榊に「日万凛ちゃん、今そうやって蒼生に話しかけるのは酷だよ」と言われ互いの顔が思いの外近付いていたことに気が付く。
 蒼生も「日万凛、近過ぎだから。」と顔を背ける。照れる蒼生の顔は子供の頃と変わりがなくて日万凛は何だかんだ嬉しくなった。

 初めは妙な居心地の悪さを感じていた日万凛も時間が経つにつれ素直にこの久々の再会を楽しんでいた。
 直接、日万凛と蒼生が会話のやり取りをする、というのは少なかったけれど、それでも気不味い雰囲気にならなかったのは雅紀のお陰だ。
 雅紀は日万凛に対しても返答しやすいように質問をしてくれたり、話に置いていかれそうな時は然りげ無く会話に混ざらせてくれていたので飽きることが無かった。
 気が付いたら店内には日万凛達だけで、BARの閉店時間も間近の時間になっていた。