「貴女、今蒼生につきまとってる女?蒼生、私と結婚するから、会ったり連絡取ったりするのやめてくれない?」
 ゴールデンウイーク直後のある日、仕事が定時で終わり、オフィスを出て直ぐの事。黒塗りの高級車の後部座席のウインドウが開いたかと思ったら、日万凛は宣戦布告を受けた。
 中に乗っていた女性は、見下すかのように日万凛を一瞥して言った。
 
 先日、潤に誘われホテルでディナーを食べに行った時、個室から出て来た女性だ。蒼生と共に。
 蒼生は日万凛達が居たことに気がついていたのにも関わらず、目を合わせることもなく足早に去っていった。
 相変らず蒼生からは連絡がない。ここで言い訳の一つでもしてくれれば、日万凛だって蒼生に対し思いをさらけ出せたかもしれない。

 車内、後部座席から高圧的な視線を向けて来る女性に目を奪われる。目元、口元にキツめな印象の女性だが、各パーツはとても整っており、女性からみても綺麗な人だ。
 表情ひとつ、行動ひとつとっても自分に自信があるのだろうと見て取れる。
 そして蒼生が学生時代、一緒に居た女子達ともそう印象は遠くない。この女性から向けられる視線、日万凛はよく向けられていた。蒼生の傍にいる女性達は、いつも同じ視線で日万凛を見る。
 「なんであなたが蒼生の傍にいるのよ」と言う妬み、そう言うのもを学生時代は常に周りから浴びせられていたのをふと思い出し、口元に笑みが浮かんでしまう。
 大人になっても、蒼生が傍にいると同じ目に遭うのか、と思ったらそれが可笑しくて仕方なくなったのだ。