BARから出たら目の前にタクシーが止まっていた。いつの間に呼んだのだろうか。和泉はそのタクシーに日万凛を押し込め、タクシーの運転手に1万円札握らせる。「運転手さん、出してください。」とドアを閉めて去っていった。
 徐々に加速していくタクシーに乗り、呆然と後方のBARを見続けていた。
 
 ……トゥルルル
 和泉が手配してくれたタクシーで帰宅して直にスマートフォンが着信を知らせる。画面には潤の名前が表示されている。

 「潤?」
 名前の後にどうしたの?と続けようとしたが、潤の言葉で遮られる。
 『日万凛、今何してる?』
  いつも日万凛に電話する時の潤はこれでもかって言いたくなるほど、甘いボイスだが、この電話での潤の声は違っていて違和感を覚える。
 『あ、いいや。もう家だろ?ところで明日、暇?一緒に飯行こうぜ。この前、日万凛が行きたがってたホテルのディナー、予約しとくから。』
 普段通りの週末のお誘い。
 だが口調には何故か感情を抑えてるような、そう聞こえる。ああ、最初に潤に感じた違和感はこれだったのか。
 「うん」そう一言だけ伝えると『じゃ、詳細はまたアプリで連絡するから。』と早々に電話を切られた。
 
 明日の予定が決まったけれど、憂鬱な気分が拭えない、そんな金曜の夜だった。