「…あれ?もしかして、田崎さん?」

 週末の金曜日。日万凛にとっては最近のルーティンになりつつある夜の街の徘徊。 
 いつもの様に目についたBARに入り、適当にカウンターに腰掛ける。そして度数の強いカクテルの味を楽しむのではなく、ただ単に煽り続けていた日万凛に声をかけてきたのは和泉だった。
 「和泉さん…」
 和泉は「隣いい?あ、マスター彼女と同じものを。そしてつまみいくつか用意してくれる?」と、日万凛が同席を了承する前にカウンタのスツールに腰掛けた。
 そしてCMで世間の女性を魅了した甘いマスクに、でも口元には意地悪い笑みをたたえ日万凛の耳元で囁いてきた。
 「田崎さん、そんな飲み方していると悪い男につけ込まれるよ?」
 言い終えると、和泉は日万凛の肩をそっと抱き寄せて来た。

 心が弱っている時の男性のこう言う言動はズルい。仕事終わっての完全なプライベートで、ましてや酔っているこの状態の日万凛は防御力がゼロに限りなく近い。
 あやす様に背中をポンポンと優しく撫でられ、気が付いた時には一つ、二つと涙が溢れて来た。薄暗いBARのカウンターの端で抱き寄せられながら、ただ涙を流した。
 落ち着いた頃を見計らって和泉が「どうした?いつもの仕事中の覇気ないじゃん?」無理に聞き出そうとしないこの話し方に日万凛は肩の力がスッと抜けた気分だった。