「ねぇ、パパ。私、神崎蒼生と結婚したい。」
 そう目の前の壮年の話しかけているのは、櫻小路華蓮(さくらこうじ かれん)。
 壮年の男性は華蓮の父親で桜産業の社長である。
 「華蓮、神崎蒼生…笹川の所の血縁だな。確か蒼生くんの父親が笹川の常務だったはず。お前たちは知り合いなのか?」

 父親に問われ、華蓮は出会った日を思い出す。蒼生との出会いは、パーティーだった。
 桜物産との付き合いがある会社のパーティーに呼ばれた時、パーティーに蒼生が友人に連れられ参加したのだ。
 出会った当時、蒼生は二十六歳、華蓮は二十八歳だった。
 今まで華蓮の周りにいた男性は、華蓮の手練手管に直ぐ陥落していたが、蒼生は一向に靡かない。
 普段は追いかけられる恋愛をし、自らが選別し、男を選んでいた華蓮が、初めて追いかけた男が蒼生だった。
 それはもしかしたら途中からは恋心ではなく、執着心だったかもしれない。
 
 「二年近く前に半年ほど付き合ってたんだけど、別れてしまったの。でも私、蒼生が忘れられなくて…パパ、どうにかならない?お願い。」
 華蓮は蒼生が忘れられなかった。付き合ったといっても、端から華蓮に興味ない蒼生は常に冷めていた。
 基本、蒼生からは連絡が来ない。会ったとしても誘わないとホテルへ行こうとしない。
 どうにか彼女のポジションを手に入れたけれど、だからといって蒼生から愛を囁かれたこともなければ、何か貰ったりした事はない。デートすれば、デート代は出してくれてたが、それだけだ。