PCを立ち上げ、昨晩から今朝に掛けて受信したメールへ返信を送る。
　メールの返信先は部下からの仕事の進捗報告や、取引先からの商談だったり様々で自身のスケジュール帳と睨めっこして返信していく。

　その後は先に控えている会議の議案書の作成。
　リズムに乗り出し着々と業務をこなし始めて頃、静かな部屋にスマートフォンの着信が鳴り響いた。
　せっかく仕事がリズムに乗り出したのを邪魔をされ、少し苛つきながらスマートフォンの画面を見るとそこには潤からの着信を知らせている。

　「…なんだよ。」

　仕事の邪魔され、イラつく。スピーカーにして、タイピングしながら潤の話を聞く。

　『んな不機嫌そうに出なくてもよくね？日万凛じゃねーから不機嫌とか？本当、蒼生ってさ。基本は俺様なのに、事日万凛に関してはヘタレだしグダグダなのな。すげーウケ……』

　イラついて通話を切る。仕事の邪魔をされた挙句、バカにされるとかふざけるなと思う。
　けれども、日万凛に関しては自身でも情けないくらい再会してからはへタレを発動させている自覚がある。自覚はあっても、言われる筋合いはない。

　再びコールが鳴る。電源切っておけば良かったと一瞬後悔する。先程の潤からの着信で集中力も切れたし、一休みするかと再度潤からの着信に応じた。

　『蒼生、何イラついてるかわかんねーけどさ、話し中！切るじゃねーよ！お前今日休みだよな？』

　「あー、休みで自宅で仕事していたのをお前に邪魔されて俺は今すげぇイラついている。」

　潤の質問に答えると笑いながら「まーまー怒るなよ、取り敢えず俺の代わりにちょっと買い物頼まれてくれね？」と、日万凛が体調悪く伏せっていると知らされた。
　合鍵なんてそんなもの貰っていないと告げると、「会社まで取りに来てくれ、エントランスついてら連絡して。」と、電話を切られてしまった。


　車で潤の会社まで向かい合鍵を借り、その足でスーパーとドラッグストア経由して日万凛の家に行く。
　それなりに賑やかな女遍歴ではあるが、蒼生は初めて合鍵で彼女の部屋を訪れた。今まで、付き合ってきた女に「蒼生の部屋の合鍵欲しい」とか、逆に「蒼生に部屋の鍵渡したい」と言われることを好ましく思っていなかった。
　だから一度も渡したり、受け取ったりした事もなかった。
　現金なものでその合鍵が【日万凛のもの】だと特別に感じる。