「西条くんなら撮影をこなしてるから舞台に立つ度胸ついてるだろうね。ルックスも申し分なくて、なによりあの人気。新入部員が殺到するのを期待してるわけだ?」
 きりが西条を勧誘する理由は、伝えるまでもなく、真琴に理解された。

「厳しいんじゃないかな」
「へ?」
「彼、忙しい人だって有名だから」
「やっぱり。そうなのかなぁ」
「モデル傍ら成績優秀。勉強と仕事の両立してて暇なわけないよね。そうそう。どこかの雑誌との専属モデルの契約したって噂も聞いたよ」
「えぇっ……!?」
 勧誘のハードルがあがった。読者モデルだからまだ少しは身近に感じられたのに、専属となると本当に遠い人のようだ。きりの中の希望が小さくなっていく。
「やっぱり西条くんは敷居高だったかな……。でも女の子集めるには。どうしても彼が必要なんだよね」
「客寄せパンダってわけね」
「パンダ!?」
「あの彼をていよく使おうなんて。吉川さん結構小悪魔だね」
「そんなことないよ。もちろん西条くんにだって大きなメリットはあるから!」
「メリット? ふーん。どんな?」
「そりゃあ、演劇部に入れば、演劇の楽しさをわかってもらえるでしょ。そうなると彼も楽しいでしょ? 高校生活が充実するでしょ。青春って感じでしょ!!」
 目を輝かせ指折り数えているきりに、
「吉川さんがすごくポジティブで、そして演劇が大好きなんだってことはよくわかった」隣から肩をポンと叩く真琴。

「うん。大好きだよ。だからこそ、その世界に引き入れたいと思っている」
「女の子は? 募集しないの?」
「したいのは山々なんだけど、私に使える時間って限られてるから。目下は不足してる男子部員が欲しいんだよね」
「ああ。男、少ないんだ?」
「うん。一人しかいない」
「うわぁ。そりゃ大変。配役もだけど力仕事とかもありそうだし男手は欲しいんじゃない?」
 最初はポカンとしていた小野寺だが、親身に話を聞いている。
「西条くんが入れば、西条くんのためならなんでもやります!……って子も確保できるだろうなぁ」

 追い払われたときのファンたちを思いだす。放課後に大好きな西条と部活に励めたら幸せに違いない、ときりは思った。

「案外打算的だね」
「一応私なりにイロイロ考えてるよ!」
「主役級男子と働きアリを同時に確保しようだなんて」
「あ、アリとか思ってないよ!? お芝居は、みんなで作るものだから」
「へえ。んー、誰かいたかな。まだ部活決めてなくい男子。それもイケメン」
 真琴が、机に頬杖をついて、眉間にシワを寄せる。