まぁ、失ったと言うのは大袈裟な表現かもしれない。実際、彼は男で私は女なのだけれど、恋をしていたあの頃はなにも躊躇うことなく彼のことを好きだと思えた。



だからと言って別に今、彼のことが嫌いなわけではない。今だって彼のことは好きだ。



けれど、男として好きなのか、家族として好きなのかなんてもう分からなくて。分かるのは彼はたぶんもう、私のことを女として好きではないということ。



結婚をしたから皮肉にも私たちは男と女ではなくなった。
男と女だから結婚できたはずなのに、まったくおかしな話だ。




彼はもう私に好きだと、言ってはくれない。







「ねぇ、今日はご飯食べてくるの?」

「そんなの夜になってみないと分からないよ」

「じゃあ、分かったら連絡してね」

「……」




玄関で革靴を履く背中を見つめながら当たり前のように交わす言葉。私のお願いに振り向くこともなく、言葉を返すわけでもなく、黙りな彼。