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美少女の病室をノックするのって、どうしてこんなに勇気がいるんだろうか。


僕は何度目かの深呼吸をして汗ばんだ右手を軽く握りしめた。


この右手をドアに当てるだけでいい。


そんな簡単なことができなくて、自分で自分を殴りたくなった。


クラスで決められたことなのだから、間野さんだっていつか僕の番が回って来ると知っている。


だからそんなに緊張する必要はない。


自分自身にそう言い聞かせてみても、やっぱりダメだった。


僕はとことん、こういうことが苦手みたいだ。


「どうかされましたか?」


突如後ろから声をかけられて、僕は文字通り飛び上がって驚いた。


振り返ると男性看護師が怪訝そうな顔でこちらを見ている。


どうやら不審者と思われてしまったようだ。


でもこれは好都合だった。


この看護師さんに学校からの預かり物を渡してしまえばいいんだ。


そう閃いた僕はすぐに鞄からプリント類一式を取り出した。


「これ、学校の課題とかです。間野さんに持って来たんですけど、渡しておいてもらえませんか?」