寺井先生がお見舞いに付いて来てくれるのではないかと、一瞬期待する。


しかし、寺井先生が僕に言った言葉は全く別のものだった。


「くれぐれも、間野さんに変なこと言わないようにね」


変なことってなんだ。


僕は奥手で、ロクに会話だってできないのにナンパみたいなことできるわけないだろ。


寺井先生はやけに真剣な表情でそう言っていたけれど、僕の性格を把握してきているはずだ。


そう思ったが、寺井先生が言っていたのはナンパとかそういうことではなく、ホームルームの時間に僕が聞き逃したことに関係があったようだ。


それなら、もう1度ちゃんと先生に説明を聞いておけばよかった。


そう気が付いたときにはもう、僕は間野さんが入院している203号室の前に立っていたのだった。