☆☆☆

もし間野さんの言っていることが本当だったら、僕は最低なことをしてしまったことになる。


笑ったり怒ったりするのではなくて、間野さんは単純に受け入れて欲しかったのだろう。


それを僕は……。


息を切らして立ち止まったとき、周囲はオレンジ色に染まりはじめていた。


額に流れる汗をぬぐい、今日2度目の院内へと足を踏み入れた。


幸いにも面会時間が終るまであと30分ある。


少しは間野さんと話ができるはずだった。


エスカーレーターを待つのももどかしくて、僕は一段飛ばしで階段を駆け上った。


ナースステーションにいる看護師は引き継ぎ時間なのかいつもと顔ぶれが変わっていて、軽く会釈をして通り抜けた。


203号室の前でようやく足を止めて、大きく息を吸い込んだ。


こんなに汗まみれた僕となんて会いたくないかもしれない。


昼間のことで怒っているかもしれない。


でも、話さないといけないことがある。


呼吸が整ってきた僕は病室のドアを2度、ノックした。


「はい」


間野さんの声に心臓が跳ねる。


いちいち緊張してしまう自分を叱咤して、ドアを開けた。