僕は少し戸惑いながらも203号室に足を踏み入れた。


さっきまでの間野さんと何も変わらないのに、僕の中では何かが大きく変わってしまっていた。


ベッドに近づくだけでも異様に緊張してしまう。


「あはは、ごめんね驚かせちゃって」


看護師の足音が遠ざかったのを確認してから間野さんはそう言った。


昨日と同じように笑っているつもりかもしれないけれど、その声は熱っぽくて辛そうだ。


本当なら『大丈夫?』とか『体つらくない?』とか、心配の言葉をかけるべきだろう。


だけど僕は聞かずにはいられなかった。 


「さっきのはなに……?」


そう訊ねると、間野さんは笑顔を浮かべたまま頷いた。


「驚かせっちゃったよね? ごめんね」


「それは別にいいけど、どういうことなのか説明してほしい」


「うん。あれは私に任せられた能力。普段人前では使わないんだけど、私にはもう時間も残ってないし、バレたって誰も信じないだろうし。大富君って言いふらすタイプでもなさそうだし、いいかなって思って使っちゃった」