見入っていると、颯ちゃんに肩を抱き寄せられ、私もその広い胸にしなだれた。
「私、今日此処に来れて嬉しい。ありがとう、颯吾さん」
「良かった。こういうの好きだろうと思ったんだ」
王子様然と微笑む。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
そう願わずにはいられない。
家と会社の往復という狭い世界でしか生きてこなかった私には知らない世界。
そんな貴重な体験を大好きな颯ちゃんと出来てる。
どうしよう……幸せすぎて怖い。
それでも、遠くない未来、この関係が解消されてしまうんだよね。
視界が俄かに滲むのを、オーロラを見上げて涙が零れないように堰き止めた。
泣きたくなんてない。
二度とないこの時間を、シッカリ瞳に焼き付けるんだ。
大好きな人と恋人として過ごせるこの瞬間を1分1秒無駄にしないように、俯きたくない。
この後は、いつものように颯ちゃんのマンションに泊まって、いつものように抱き合った。
婚約者に対する罪悪感を塗り潰すように。
颯ちゃんに求められるたび、その温もりを身体に刻み込むように縋りつた。
何度も何度も唇を重ねては、想いを綴り。
意識を飛ばすまで、身体中で律動を受け止めた。
颯ちゃん好き、大好き。
だから、私が居た事を、嘘でも愛し合えた日々を忘れないで―――。
何かに引き寄せられ気がして、重い瞼をゆっくり開く。
カーテンの隙間が明るくも暁闇を知らせる。
自分に絡みつく逞しい腕に包まれていて、昨夜愛を交わした事が脳裏に甦った。
何度微睡みながらも、自然に颯ちゃんの胸にすり寄ると、また抱きしめられる腕に力がこもった気がした。
とくんとくんと規則的な鼓動が心地良く響く。
この瞬間が、たまらなく好き。
小さい頃も、こうして抱きしめられ、私は身を委ねてたな。
夜中に瞳を覚ます私を、子供特有の暗さへの不安だと思ったのか、しきりに「大丈夫、大丈夫」と背中を叩いてはは繰り返し、抱きしめながら一緒に眠ってくれた。
そんな昔の事を思い出しながら、温かなぬくもりが私を夢の世界へ誘っていった。