「あっ、悪い……」


引っ込めた手をグッと握りしめて伏目がちに言う。

私もどうしたらいいのか解らなくて、


「……お疲れ様でした」


再び頭を下げると、颯ちゃんが待つ車へと駆けだした。

後方で「誰?誰?」と水戸さんに詰め寄る野村さんと三沢さんの声がして、少しした後、大きな絶叫が聞こえたけど振り返るよりも颯ちゃんのもとへ急いだ。

前を向いた私の瞳には、もう颯ちゃんしか映ってなかった。

毎日会ってても会い足りない。

もっと一緒に居たい。

もっとその体温に触れてたい。

私の欲求は満足するどころか、砂漠を水を求めて飢え歩く旅人のような感覚になっていった。

リリーの時は手に入らないと諦めていたのに、りこになって颯ちゃんの恋人になれて、本当はそれだけで満たされたはずだったのに。

独占欲が私の心を支配し始めている。

いつか、颯ちゃんを返さなきゃいけないのは解っているのに、解っては、いるのに……。


「おかえり。お疲れ様」


車のドアを開け助手席に乗り込むと、車内は颯ちゃんの匂いでいっぱいだった。

瞳の前には、大好きな人が笑顔で迎えてくれる。

幸せ……。

それから早めの夕食を摂って、夜の水族館へ向かった。

水族館なんて、小学校以来でドキドキする。

昔と違って、今はプロジェクションマッピングで館内は彩られて、水槽の魚達以外も瞳を楽しませてくれる。

夜の所為か、ゆらゆら揺蕩う魚達と、宇宙のような深い暗闇をバックに煌めく星々、星間ガス。

地球が自転するようにゆっくり映像が流れていって幻想的な空間を醸し出してる。

天井だけでなく、床は海底をイメージしているようで、貝や魚の移動する影などでうごめいている。

凄い……!

私が見入るペースに合わせ、颯ちゃんも水槽を観賞してくれる。

通路で不意にウミガメが横切って、ビクッとしていたら颯ちゃんが可笑しそうに笑ってて、悔しいからプイッと不機嫌アピール。

足早に繋いだ手を牽引して次へ進む。

ペンギンゾーンにくると、一面に広がるオーロラが来訪者の瞳を奪った。

本物のオーロラなんて見た事ないけど、レースのカーテンが美しいグラデーションを纏い、波をうつように重なり揺れる姿は壮大だ。