わ~お、ちょっと残念な絵だ。

我が社一のイケメンが、ちょっと間抜けな感じで少し笑える。


「水戸さん、お疲れ様です」

「お、お疲れ……」


狐につままれたような顔で瞠目している。

呼び止められたからには何か用があったんだろうけど、何も言ってこない。

小首を傾げていると、

「こんな娘初めて見た。どこの部署だ?」

「凄い可愛いな~。営業の娘か?」

水戸さんの脇にいた2人の男性は、我が経理課の野村さんと三沢さんだった。

さっきまで一緒に机を並べていた黒川ですが……。

あ、そっか。

今、私、黒川梨々子じゃなくて、りこだった。

2人共私に気づいてないようで「可愛い~」と連呼するもんだから、恥ずかしくて床に視線を逸らした。

毎日顔を合わせる人に気付かれないんだから、きちんと変身できてるみたい。


「黒川……どうして、また……その恰好に?」


水戸さんがやっと我に返った問て来た。


「……これから人と会う約束があって……」

「その姿になる必要があるの?……男?」

「あ……、えっと……はい」


私の返答に、水戸さんが瞳を瞠った。

なんだか、居心地が悪い。

その時、鞄の中の颯ちゃんの専用のスマホが呻って着信を知らせる。

鞄の中を探っていると、野村さんと三沢さんが「何課の娘?」と水戸さんに尋ねている声が聞こえる。

本当に気づいてないんだと思いつつ、通話をタップする。


『もしもし?お疲れ様。まだ仕事中?それとももう会社出ちゃった?』

「いいえ。今丁度出るところで………」


颯ちゃんの声に耳を擽られ、胸が高鳴る。

ヤバイ、顔が緩む。


「良かった。今日直帰になって、そのまま会社まで迎えに来てしまったんだ」

「え?」

「正面に停めたんだけど、俺の車見える?」


路肩に見える黒のSUVは、間違いなく颯ちゃんの車だ。


「今、行きますっ」


通話を切ると、水戸さん達に頭を下げて、そのまま引き寄せられるようにエントランスへ向かう。

と、突然手を引っぱられて後ろにつんのめりそうになった。

小さい悲鳴を上げて振り返ると、水戸さんが慌てて手を放してくれた。