面倒臭そうにあしらわれても、傍に居られるだけで幸せだった。
そして、いつしかめげない私に絆されたのか、颯ちゃんが私の傍にいるようになった。
学校から帰ってくると、駆け寄る私を抱き上げて部屋で遊んでくれた。
何がキッカケだったか記憶にはないけど、笑顔を見せてくれるようになった。
今まで友達にあてていた時間は、私と過ごす時間へと割かれ、夜はシッターさんではなく、颯ちゃんが面倒を見てくれるようになった。
夢に見た王子様と、私はいつも一緒だった。
そんな想い焦がれた人の無防備な顔が目の前にある。
腕枕をし、抱きしめるように私の腰にもう片方の腕を回して眠るその人の顔は、時を経て幼く棘のあった顔から精悍で色香漂うものへと変化した。
大きかった手は更に大きく、抱きしめられる胸も更に広くなった。
小さい頃からずっと好きで憧れ続けた人。
その人との昨夜の行為を思い出すと、破廉恥すぎて体温が上昇する。
私、颯ちゃんとシちゃったんだ―――。
身体は微妙に筋肉痛だし、股に感じる異物感と痛みは、夢じゃないと告げている。
スルはずじゃなかったんだけど、全くの想定外だったんだけど……。
熱いキスに煽られて、伝える気はさらさらなかったはずの気持ちが、一気に溢れてしまった。
婚約者がいるって解ってる。
だけど、少しでいいから家族としてではなく、嘘でもいいから1人の女として愛されたかった。
婚約者に対して、良心が痛まない訳じゃない。
申し訳ない気持ちと、胸を突き刺す痛みも確かにある。
それでも、諦めていた想いをぶつけられて幸せだった。
私達に残された僅かな時間を惜しむように、そっと擦り寄ると抱きしめられていた腕に急に力が込められた。
「おはよ……。身体、キツくない?」
色素の薄い綺麗な瞳が柔らかく細められ、私を覘き込む。
初めては凄く痛いって、高校の時、クラスで体験の早い娘が話していたのを思い出す。
触れ合う素肌が擦れ合って、何だか照れくさい。
あ、メイク……と思ったけど、まだ辺りは薄暗いから大丈夫かな?
一応俯き、挨拶をする。
「おは、おはよう……ござい、ます。少し違和感があるけど……優しくしてもらったのでそんなに……んっ!」