お伽話の定番は、王子様とお姫様が想いを通わせるラストのキスシーン。
波乱を乗り越えて、永遠を誓う相手とキスをする―――。
幼い頃、おねだりして何度も絵本を読んでもらった。
カッコ良くて、自分を何からも守ってくれて、愛してくれる。
そんな素敵な王子様が、いつか自分にも現れるのだと信じて疑わなかった。
大好きな人とキスをする。
それに焦がれる想いは、子供だけじゃなく大人になったって同じで。
恋愛漫画や恋愛小説には絶対外せない、女の子のときめきポイントシーンであるのは間違いない。
ただ大人になって解った事がある。
キスの相手とは……必ずしも結ばれるわけではない。
3歳の時、お父さんの転勤で生まれ育った地を離れ今の家にやってきた。
慣れない街並み。
知らない人々。
幼稚園のお友達と離れ、寂しい思いをしていた時、私はとうとう出逢ってしまったのだ。
ずっと夢見てた理想の王子様に!
王子様は以外と近くにいるもので、隣の家に住んでいた。
名前は、篠田颯吾、8歳年上だった。
子供ながら一目惚れだったのだと思う。
出逢ってしまった時は、衝撃だった。
颯ちゃんの最初の印象は今と全然違っていて、眉間に皺をためた鬱蒼としたものだった。
その次に会った時は、表情が滑り落ちたように、瞳に何も映さない……。
自分以外の誰も存在していないような、孤独を秘めた人、だったように感じた。
それでも、眉目秀麗なその姿に、夢見る女児心はロックオン。
お父さん同士が同級生で友人という事もあり、家族同士の交流は時間はかからずと深いものとなり、私は難なく篠田家に入り浸る事に成功した。
当時キャリアウーマンだったお母さんは、支店が変わってもアチコチ飛び回っていて、お父さんも出張が多く両親不在の時は、ベビーシッターさんがきて私の世話をしてくれていた。
そのシッターさんが迎えに来るまで、私は篠田家のお世話になっていた。
友達と遊びに出掛けたい颯ちゃんは、私を一瞥すると途端に不快な顔を露わにして、逃げるように出て行ってたったけ(笑)。
それでもたま~に在宅の時は、ストーカーのように纏わりついた。
颯ちゃんの隣で1人で遊んで1人で喋って。
全く相手にされず、存在すら無視され続けたけど、それでも構わなかった。