もしかしたら、何か事情があって報告出来ないでいるのかもしれないしね。
だったら、不明瞭なものに翻弄されてはいけない。
いつか話してくれる時がきたら、笑顔でおめでとうを言うんだ。
好きな人には幸せになって欲しいもの。
だから、結婚を控えてて、これから色々物入りになるのに、家族とはいえ私にこんな高価な贈り物をしてる場合じゃないと思うんだよね。
嬉しいけど、気が引けちゃう。
小さく嘆息し、窓の外に視線を移すと、外界をシャットアウトするかのように伸びた前髪に、眼鏡で表情を隠した胡散らしい顔があった。
中学の時に1度新調してから使用している、全くお洒落ではない眼鏡(10年近く使ってて、1度も壊れる事なく現役なんて、物持ちの良い自分が、寧ろ誇らしい)。
一応社会人としてメイクはしているものの、パッとしないのっぺら顔。
香織さんは美人だって聞くし、このハイブランドの指輪が似合うくらい素敵な人なんだろうな。
だって、颯ちゃんが選んだ人だもの。
この助手席だって、今までのように私が座るべきものではないのに。
「リリー、指輪気に入らなかった?」
隣から懸念の声がした。
「……違うの。ただ……私なんかには勿体無いなって……思って」
この席に香織さんも座ってるのかと思ったら、居心地が悪いなんて……言えない。
私にこの指輪は……。
「全然似合わないのに……」
赤信号で車が停車した。
繋いだままだった手が引き寄せられ、縮まった2人の距離に心臓が煩い。
すぐ傍に、颯ちゃんの色素薄い茶色の瞳があって、私が映り込んでいる。
「どうして?俺はリリーに似合うと思って贈ったんだよ?」
口には発せられない言葉が、喉で異物となって留まる。
―――婚約者がいるのに。
でも、まだそれを口にしたくない。
「でも、アクセサリーって……特別な人に贈るもの、だし。こんな高価な物……」
「俺にとって、リリーは誰よりも特別だよ?確かにこれは安いものじゃないけど、価格なんて関係ないんだ。リリーに笑顔で受け取ってもらえたら、それで十分なお返しなんだよ」