颯ちゃんには婚約者がいるから、こんな不実は絶対ダメ。

何より……。


「私……結婚するまで……身体を…許しちゃいけないって……言われて、て……」


共学の高校に進学した私に、何度も念を押した張本人を前に言った。

さっきまでの獰猛な獣のような表情をしていた颯ちゃんが、大きく瞳を開いた後力なく笑い、いつもの優しい笑顔を見せた。

その笑みと濡れた唇の生々しさは、何ともチグハグしている。


「あっははは!そうだね。大切な事は何も言ってなかったね。じゃあ、改めて……。俺は君が好きだ。付き合って欲しい。ちゃんと責任もとるから、君の全てを委ねて欲しい」


颯ちゃんに、人生初めての告白を受ける。

優しい瞳と慈しむような手つきで紅潮した私の頬を撫でられる。

―――嬉しい。

素直にそう思った。

だけど、やっぱり心に引っ掛かるのは颯ちゃんの婚約者の存在。

和歌ちゃんは言ってた。

男の人は、同時に複数の女性を好きになれる、て。

私の事は本気?

それとも遊び?

責任をとるって、どういう意味?

もし本気なら、私の全て、髪の毛一本余すところなく全てを捧げたい。

でも、もし遊びなら……。

私は都合のいい女?

いつか捨てられてしまうの?

香織さんとは、婚約を解消したとも、別れたとも聞いてはいない。

颯ちゃんの言う私への責任は、一生愛人として面倒見るって事?

疑問はいっぱいあるのに、物事を明確にする怖くて、勇気がでてこない。


「君は?俺の事どう思ってる?」

「わた……し……。わ、私……私は……」


返答を言い淀んでいると、


「好き?それとも顔も声も聴きたくないくらい嫌い?」


悲しそうに眉先を下げた表情を見せた。

嫌いなわけない!


「そ、そんな!好きです。凄く大好きっ…………で、す……」


十数年、ずっと言えなかった言葉は、いとも簡単に滑り出た。

颯ちゃんを嫌いだなんて、世界中を敵にまわしたって言いたくない。

咄嗟に飛び出した言葉に、颯ちゃんは破顔した。



「俺も、愛してる」


お互いの存在を確かめるかのように、何度も何度キスを交わして、舌を絡める。

さっきまでの嚙付くようなものじゃなくて、優しく味わうようなキス。