婚前に遊びたいのだって、リリーが働く会社の人間に手なんかださないでよ。

颯ちゃんならもっとより取り見取りでしょ?

勝手に宜しくやってればいいじゃない。

こんな颯ちゃん知らない。

知りたくもない。

嫌い。

颯ちゃんなんか、大嫌い!

リリーにとっても、もう王子様でも何でもないんだからっ。

嗚咽しながら泣きじゃくり、さっきまで突き放そうとしていた胸にしがみつく。

颯ちゃんはそんな私を宥めるように、背中をポンポン優しく叩いた。


少し落ち着いから、洗面所をかりた。

メイクしたまま泣いたから顔がぐちゃぐちゃだった。

一度メイクをオフにして、りこ顔が保てる程度に最小限のメイクをしてリビングに戻り、颯ちゃんに改めて謝罪した。

颯ちゃんにしたら、急に怒ったり泣かれたり、当惑したに違いない。

返す物も返したし、1人で駅まで歩いて行けるし、ギリギリバスもまだあるはず。

帰宅する旨を伝えると、首を横に振られて、腕を掴まれた。


「このまま帰したら、もう会えない気がする」


私も、2度とりこになるつもりはないから、きっとこれが最後。

リリーとしては……今までどおりとは言えないけど、時間がたてば、ちゃんと幼馴染に、家族に戻るから。

笑えるくらいにはなれるかな……。

否定をしない私の顎をとらえ、触れるだけのキスをしてきた。


「俺は君が好きだよ」


むけられた真剣な眼差しに胸が早鐘を打つ。


「……嘘……」


「嘘じゃない。本気だよ。じゃなきゃこんな事しないし、引き止めたりしない。ここにも連れてこない」

「だって……」


婚約者がいる。

続けようとした言葉は、もう1度重ねられた唇によって遮られた。

こんなのダメ。

バンバン胸を叩いて訴えてもビクともしない。

寧ろ……。


「んっ………」


啄むキスの合間に湿った吐息がもれた。

何度も唇を舐められて、促されるように口を開くと、舌が入り込んできてギュッと睫毛を震わせた。

室内には甘い吐息が響いて、私の身体を総毛立つ。

初めて唇から受ける濃密な感覚に、怖くて胸を押し返しても、やっぱりびくともしない。

どんどん攻められて、壁際。

ダメなのに……。

もう逃げ場はなかった。