「りこちゃんも。今日会えてよかった。また遊びにきてね」
「あ、はいっ。今日はご馳走様でした。とても美味しかったです」
小林さん笑顔のに見送られ、私達はお店に来た時同様、手を繋いで歩き出した。
駐車場に向かい、来た道を辿ると少し寂しい気持ちになる。
スーツも返した。
食事も終わった。
颯ちゃんと別れる時間が、刻々と近づいている事に気付いてるから……。
それは、私がりこからリリーに戻るという事。
こんなふうに、リリーでは颯ちゃんの友人に紹介すらされた事はなかった。
1番近くに居るはずのリリーより、少し会っただけのりこの方が颯ちゃんの人間関係に触れるなんて、ちょっと悔しい。
やっぱり、ブスなリリーじゃ人に、しかも友人に紹介するのも恥ずかしかったのかも……。
颯ちゃんが運転する車は、駅方面に向かっていく。
あぁ……。
駅に着くまで後10分くらい?
車から降りた途端、私はリリーに戻ってしまう。
家に帰ってメイクを落とせば、魔法も解ける。
明日から、また何事もなかったかのように淡々とした生活をして、颯ちゃんとも何もなかったように家族として過ごすんだな。
ほっとするような、寂しいような……。
胸がチクチクして、気持ちがどんどん落ちて行く。
窓の外に視線を移すと、地元のはずなのにあまり立ち寄らない道を走っている事に気付いた。
駅周辺なのは間違いないけど、駅じゃない方向に進んでる。
「……し、篠田さん?」
「悪いけど、もう少し付き合ってくれる?」
特に夜予定があるわけでもないし、いいか。
こんな重い空気の中でも、一緒に居られる事が嬉しいなんて……。
頷くと、車は最近駅近くに出来た新築分譲マンションの地下へ侵入していく。
地下は駐車場になっていた。
えっと……なぜ此処に?
狼狽していると、再び手を引かれてエレベーターに乗り込む。
そのまま、マンションの一室に案内されて、おずおずお邪魔する事に。
マンションの内覧ってわけでもなさそうだし、どういう事?
「あの……此処は?」
「俺の部屋……かな?」
「………えっ?」
「此処、うちの会社で建てたマンションなんだ。立地もいいし、将来祖父が会社引退したら住むつもりで購入した一室なんだけど、まだ現役バリバリだから引退するまで、管理も兼ねて俺が借りる事になったんだ」