自分との悩みを相談?されるとは予期せぬ事態に戸惑いながら。

自分の中にやましい事がある所為か、リリーの事なのにりこの事しとして喋っちゃいそう。

今の私はりこ。

私はりこ。

リリーが颯ちゃんを避ける理由があっても、颯ちゃんには突然の拒絶に右顧左眄しているんだろうな。

とりわけ『遅れて反抗期がやってきた』状況?

私が黙っていると、颯ちゃんがふぅ~っと息を零した。


「昔はなんでも話してくれたのに……。今は、俺達の間に見えない壁があるみたいだ」

「……それは……」


リリーの所為じゃないじゃない。

颯ちゃんだって、婚約した事を話してくれてないのに。

自分の事は隠すのに、私の事は把握したいなんて、ちょっとムッとしてしまう。


「それは、そ……篠田さんが、逆に壁を作ってるからじゃないですか?」

「俺が?」

「そうです。篠田さんも正直に言うべきです。自分がこれからどうしていくのかを」

「……これから、ねぇ……」


颯ちゃんは腕組みをして、じっと私を見つめる。

つい調子付いて強気に言ってみたけど、私の中を探るような無言の視線が痛い。

弱気な自分が肩を竦ませる。

実際、これで颯ちゃんの口から婚約者の話を切り出されたら、私、大丈夫かな……。

秘密事をされると、信頼されてないようで嫌になる。

だけど、正直に話されても聞きたくない自分もいる。

私、なんて身勝手なんだろう。


私達は、気まずい雰囲気のまま店を出た。

会計時、レジで財布を取り出すと颯ちゃんに手で制され「もう会計は済んでるから」と、一切受け取って貰えなかった。

いつの間に済まされたのか、全く気付かなかった。

これが、俗にいうスマートな男ってヤツ?

小林さんが、私達のお葬式のような空気を察してか、店の外まで見送りに出てくると、無言で颯ちゃんの背中を「バシッ」と叩いた。

颯ちゃんは、忌々しそうな視線をむけながらも、


「解ってるよ。……料理美味かったよ。また一緒に来るから」


ぶっきら棒に挨拶をすると、小林さんは表情を和らげて私に視線を移した。

人懐っこい笑顔でウィンクを飛ばされ、恐縮してしまう。