にこやかに話しかけられて、ピシッと姿勢を正した。


「は、はい。初めましてっ。……りこと申します」


やましい思いがある所為か、語尾が小さくなった。

下の名前だけなんて失礼かと思ったけど、颯ちゃんの手前、何となく名字は言いづらい。


「俺、颯吾の同級生の小林辰巳(こばやし たつみ)です。どうぞ宜しくね」

ワイルドなお兄さんにウィンクをされて、ビクッと肩が竦む。


「可愛いな~。良かったら、今度俺とデートしない?」


顔を覘きこまれて、頬が熱くなる。

ヤバイ、変な汗かいてきたかも……。


「近い!お前も正也も人との距離を考えろ」


颯ちゃんが私を隠すように背中へまわす。

なんか既視感……。


「正也もか!そりゃあ、颯吾の可愛子ちゃんを拝めたんだから、じっくり見るだろう!」

正也と言われて、パーティでうさぎの着ぐるみを着ていた人物を思い出した。

どうやら3人は友人らしい。

小林さんは、快活よく笑うと、私達を奥へ促した。

通路の奥に個室があるらしい。

個室も、店内同様も木製のつくりになっていて、暖色系の照明で落ち着いた趣向になっていた。

席につき、小林さんにオススメの説明をされたけど、メニューの写真がないから、普段あまり外食をしない私には、どうも料理のイメージが湧かない。

それが顔に出ていたのか、颯ちゃんが笑って「俺に任せて貰ってもいい?」の言葉に、お願いする事にした。

すると、頼んだ飲み物と一緒にどんどん料理が運ばれてきて、あっと言う間にテーブルを埋め尽くす。


「颯ちゃ……(と、まずい)し、篠田さんは、お酒飲まなくていいんですか?」

「車だからね」


つい下の名前を呼びそうになった事に気付かなかったらしく、ほっとした。

気をつけなきゃ。

颯ちゃんはかなりの酒豪で、本人曰く『ザル』なんだとか。

なのに、手元にあるのはウーロン茶。

いいのかとたずねると、大丈夫だと言う。

代行て言う手もあるけど、責任を持って私を送らなきゃいけないからね、と笑ってた。

ちょっと気が引けてしまうな……。

最後の料理をサーブされた後、「ごゆっくり~」と、小林さんは含みのある笑顔で退出して行った。

テーブルの上には、魚介たっぷりアクアパッツアに、ボーンステーキ。