申し訳なさに、なるべく明るい声音で、


「颯ちゃん、今日接待じゃなかった?もういいの?」

「あぁ……。先方の都合で早く終わったんだ」


通話の奥から、何かガラガラ転がるような音が……椅子のキャスター……?


「まだ……お仕事……してるの?」

「あはは、リリーは鋭いな。接待が思いのほか早く終わったから、片付けたい仕事をしに戻ってきたんだ。もうすぐ帰るよ。リリーはもう寝るの?」

「ううん。今日仕事持ち帰っってきちゃって、これからやるとこ」


さっきまでの緊張を含んだ颯ちゃんの声音が、優しいく丸みのある音に変化した。

仕事と言いつつ、本当は和歌ちゃんから教えてもらった事を復習したいだけ。


「そうか。じゃあ、今日寄るのはやめとくか」

「ふふっ。颯ちゃんも疲れてるだろうから、真っすぐ帰って早めに休んで」

「俺の癒しはリリーだよ。一緒にいると疲れも吹っ飛ぶんだけど……。やっぱり少し会いたいな。寄ってもいい?」

「だ、ダメです。もう切るよ」


時計を見ると23時近い。

買い物を終えてから、帰って自炊するのが面倒だったからファミレスで夕食を済ませて、ゆっくりしてしまったんだよね。

もう眠いけど、明日に備えて、1人でちゃんと出来るか確認したい。

ぶっつけ本番だと不安だし。


「ざ~んねんっ。じゃあ、リリーも頑張って」

「うん、ありがとう。颯ちゃんもお疲れ様。気を付けて帰ってね」

「ありがとう。おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


通話を切ると、自分の顔が喜色しているのに気が付く。
誰にも言えないこの気持ち。

知って欲しいと思わないし、言うつもりもない。

この気持ちをこれ以上育てるつもりもない。

私達は幼馴染であり、家族だ。

家が隣同士で、両親が仲が良くて。

そんな縁で、8つ年上の颯ちゃんが私の面倒を見てくれただけ。

仕事が忙しかった両親に変わって、ご飯の食べさせてくれたり、お風呂に入れて貰ったり、寝かしつけてくれたり……。

颯ちゃんにとって、私は娘であり妹みたいなもの。

大人になった今、時がくれば其々の道を歩んで行く。

いずれ颯ちゃんは結婚するだろう。

その時、私は家族の幸せを心から祝えるようになりたい。