「で?昨日はどうだったの?りりがメイクして、なんかいい出会いでもあった?昨日一緒にいたイケメン君は?」

「イ、イケメン君って……。水戸さんとは、そんなんじゃないよ」

「水戸さんって言うんだ、あの人。そっか。りりが興味ないならいいや。で、昨日の今日でメイクしたいってのは、どういったご用件なのかな??」


コットンに含ませたオールインの化粧水を優しくリズミカルに肌に叩き込んでいる和歌ちゃんの喜色を含む声は、確実に楽しんでる。


「実は……」


重い口を開きながら、昨夜の事を掻い摘んで話した。

颯ちゃんと偶然会場で会って気づかれなかった事。

ちょっとしたトラブルで、迷子になったゆなちゃんと言う女の子を保護した事。

小母さんの服をゆなちゃんに預けたままで、颯ちゃんからスーツジャケットを借りて、明日返す為に会わなきゃいけない事。

リリーの姿では会えないので、またメイクをして『りこ』にならなきゃいけないんだよね。

なので和歌ちゃん、お願いします。


「え~、じゃありりに颯吾さん気付かなかったの?」

「……うん。もう十数年も素顔見せてないし、メイクもしてたから解らなかったみたい」

「解らない……ね……。まぁ、女はメイクで変わるから、ね」


そう言いながら、腑に落ちないようだ。

和歌ちゃんは少し考えると、何か納得したかのように1人頷く。


「りり、メイクの仕方教えるから、自分でメイクしてみて」

「えっ!?無理だよっ。やったことないもん!」

「だから教えるって。この化粧品も、もう使ってない私物だから、このまま持って帰っていいし。家で練習して」

「でも……」

「でもじゃないっ。私に頼ってくれるのは嬉しい。だけど、いつもタイミングよく私が助けてあげられる訳じゃないんだから、自分で覚えた方がいいよ」

「でも、メイクするなんて今日が最後だし」

「あんた20そこそこで、これが最後だなんて早すぎるわよ。絶対無駄にならない事だから、覚えていきなさい!」

「……は、い」


結局、勢いにおされて、自分でメイクする事になってしまった。