物怖じしていると、顔を上げた和歌ちゃんと瞳があった。
さっきまでの優雅な立ち振る舞いが幻だったかのように、屈託なく相好を崩すと、
「いらっしゃ〜い。ちょうど空いたから来て来て」
私の手を引っ張りカウンターのスツールに座らせる。
さっきまで接客していたであろう化粧品をさっさと片付け、予め用意してくれていたらしい化粧品を並べていく。
鼻歌が聞こえそうな雰囲気の和歌ちゃんは、とても楽しそうだ。
「しっかし、昨日と同一人物とは思えないくらい地味ね」
くりっとした猫目を緩めて毒づきながら歓迎してくれる。
和歌ちゃんの白黒はっきり言う性格は、裏表がないから好きだ。
口でどんな賛美を奏でても、目は口ほどにものを言うという言葉があるように、蔑みを含んだ瞳に圧された事が多々ある。
中学に上がった頃だったかな?
自分の容姿に自信がなく、今のように長い前髪と眼鏡で顔を覆い隠していた。
同じクラスに、他校からも人気がある、とても可愛い子がいた。
その子に、たまたま颯ちゃんと一緒のところを目撃されて以来、颯ちゃん目当てに私にやたら絡んできた時期があった。
片や巷で有名な女の子。
片や奇奇怪怪な私。
あからさまに周囲からは好奇な視線を集め、目立ちたくない私は俯くばかりで居たら、
ーーー梨々子は可愛いんだから自信をもちなよ!
そう言い放った彼女の顔は、言葉とは裏腹に侮蔑の色を含んでいた。
同性の心がこもらない言葉は猜疑心を呼ぶ。
だから、良くも悪くも白黒はっきり言う和歌ちゃんとは安心して素直に付き合えるのだ。
「じゃ、早速とりかかりましょうか」
「ご教示のほど、宜しくお願いします」
「うむ。任せなされ」
鏡に映る私の顔は、緊張と妙な高揚感で真っ赤になっていた。
一応、今までの自己流メイクは社会人としての最低限マナーとしてやっていたし、それ以上は必要のないものだった。
理由はどうあれ、まさかちゃんとメイクをしたいと思う日がくるとは思ってもなかったな。
「まずは、その意味のないメイク落とすわね」
意味のない……。
メイクを生業としてる人に言われたら、返す言葉もありません。
「……はい」